遺留分を放棄する意味合い

兄弟姉妹以外の法定相続人には、相続遺産の最低限の取り分が認められています。この最低限の取り分のことを『遺留分』といいます。遺留分は遺言書よりも優先度が高いため、不公平な内容の遺言書であった場合には、遺留分を請求することができるというわけです。遺言書がない場合は法定相続分で分けられることになります。「遺留分>遺言書>法定相続分」という力関係になっています。

 遺留分は権利であり法的効力が1番強いですが、放棄することができます。最低限の取り分である遺留分を放棄することは損をするというイメージがありますが、被相続人・相続人両者にメリットがあります。遺留分を放棄するメリットについて以下で解説していきます。

目次

遺留分を放棄するメリット

遺留分を放棄するメリットは、「①被相続人にとってのメリット」と「②相続人にとってのメリット」があります。

被相続人にとってのメリット

実は遺留分放棄は被相続人の生前にすることができます。この場合は「家庭裁判所による許可」が必要です。死後の場合は特別な手続きは必要ありません。何もせず一定の期間が経過すれば自動的に遺留分が放棄されたことになります。被相続人がまだ生きているうちは、遺留分権利者へ「遺留分を放棄しろ」と圧力をかけ、相続人の遺留分権利が強制的に剥奪されてしまうことが考えられます。そうならないように、生前の場合は家庭裁判所の許可が必要になっています。家庭裁判所で許可をとるには、以下3つの要件が必要です。

遺留分放棄の許可が出る要件
① 遺留分権利者の自由な意思によること
② 遺留分放棄の必要性や合理性が認められること
③ 遺留分権利者へ充分な代償が行われていること

遺留分は本来、民法1046条(遺留分侵害額の請求)の「最低限の財産は遺族(法定相続人)に残すべきである。」に則り定められています。よって遺留分の放棄は、遺留分権利者による自由意志によって行われなければなりません。不当な圧力による放棄ではないかを家庭裁判所が判断し、遺留分権利者の自由意志による放棄と認められた場合に許可がでます。

 また、放棄の必要性と合理性があることも必要です。例えば、次男に事業を継がせたいと思っていて、スムーズな事業継承のために必要である場合などです。

最後に、遺留分権利者へ充分な代償がすでに払われている場合です。例えば、遺留分権利者の借金をかつて肩代わりしていたなどです。

 生前の遺留分放棄は上述のとおり手続きが必要になりますが、手続きをしさえすれば遺言書の内容が最優先になるので、自分の財産を自分の思う通りに分配できるという大きなメリットがあります。被相続人は血縁関係のない特定の第三者に財産を遺したいと思っているケースがあるものですが、遺留分請求の権利のある血縁関係者によって遺留分を請求されればその第三者にはほとんど遺産を遺せない可能性もあります。遺留分を放棄させていれば、自分の望み通りに特定の人に遺産を集中させることが可能になるわけです。  また、相続トラブルの懸念がなくなるというメリットもあります。遺留分は、遺言書で譲り受けることになっていた遺産を、取り分の少ない他の親族に取られてしまうということです。このような構造上、遺留分侵害請求はトラブルがつきものです。生前に遺留分放棄を行っていれば、その心配はなくなります。

相続人にとってのメリット

遺留分放棄は相続を受けた側にもメリットがあります。まず大きなメリットとして、代償金返還の心配がなくなるという点です。財産を譲り受けた人は、遺留分放棄をしていない場合、遺留分侵害請求をされればお金を返さないといけないという負担があります。遺留分を放棄させていれば、お金を一切払うことなく財産を受け取ったままにできるので、財産を受け取った側にとってはメリットが大きいでしょう。ただ、遺留分を請求する側にとっては当然デメリットとなります。

また上述の通り、生前の遺留分放棄の許可を家庭裁判所から得るためには、遺留分権利者へ充分な代償が支払われていることが要件の1つになっています。この要件をクリアするために、生前贈与で財産を受け取れる可能性があります。相続が開始する前に財産を受け取れるというのもメリットの1つでしょう。

最後に、トラブルに巻き込まれず円満な親族関係を保てるというメリットがあります。遺留分の請求ができるという事実を知ると、遺留分侵害請求をすべきかどうか迷うケースも考えられます。「請求するとトラブルになりそう」という考えと「もらえるものはもらいたい」という考えのジレンマで思い悩む方も中にはいるでしょう。遺留分を放棄してしまえば、死後に遺留分侵害請求をするかどうか悩まずに済みます。

遺留分放棄の注意点

生前であっても死後であっても、一度認められた遺留分放棄は原則としてできません。ただ、被相続人の生前に遺留分放棄が成立していた場合、例外的に撤回できることがあります。それは、遺留分を放棄する要件となっていた事情が不適当になった場合です。

 例えば、遺留分を放棄する代わりに生前贈与という形で財産を譲り受ける約束になっていましたが、贈与してくれなかった場合などです。このような場合は家庭裁判所に許可を取り、遺留分放棄の撤回が認められます。しかし、あくまでも家庭裁判所の判断によるものなので、裁判をする手間は生じてしまいます。

 また、死後に遺留分放棄と認められていた場合は放棄の撤回は一切認められていないため注意が必要です。相続の開始と遺留分を侵害されていると知った時から1年以内に遺留分侵害請求をしなければ、放棄したものとみなされてしまいます。被相続人が亡くなった後に自分の遺留分を請求したい場合には、1年以内に必ず遺留分侵害請求をしましょう。

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