亡くなった人の高額療養費の請求

故人の生前にかかった高額な医療費は、手続きをきちんと踏めば、亡くなった後でも一定金額の還付を受けることができます。
ただし、還付請求には時効(療養に必要な費用を支払った月の翌月から2年以内)など、注意すべき点がいくつかありますので、事前に確認してから還付請求をする必要があります。

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高額療養費制度とはどのような制度なのか?

高額療養費制度とは、1ヶ月間にかかった自己負担の医療費が高額になってしまった場合に、一定の金額(自己負担限度額)を超えて支払った分が払い戻されて還付を受けることができるという制度です。国民健康保険や後期高齢者医療制度、医療保険などの各種健康保険、いずれの加入者でも対象となる制度です。
高額療養費の還付対象となるのは「保険適用分」です。保険外の食事代や差額ベッド代、先進医療に係る費用等は対象外となります。

<高額療養費の計算方法>
・月の初めから終わりまでの暦月ごとに計算する
・医療機関ごとに計算する
・同じ医療機関でも入院と外来は別計算する
・同じ医療機関でも医科と歯科は別計算する

なお、加入している(加入していた)医療保険によって、支給対象となったときに「支給申請の連絡や通知等が届く場合」や、「高額医療費が自動精算で口座振込みされる」といったように取扱いが異なることがあります。まずは、加入している保険者(保険証に記載)に還付請求についての確認をしてみると良いでしょう。

死亡した被相続人の高額療養費制度の還付請求について

(1) 高額療養費の申請窓口
高額療養費の申請窓口は、下記の通りです。

・亡くなった人が国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者だった場合
 →亡くなった人がお住まいの市区町村役場の担当窓口
・亡くなった人が健康保険の加入者だった場合
 →亡くなった人が加入していた健康保険組合の窓口

(2)高額療養費の申請ができる人
亡くなった人の高額療養費の申請ができる人は、相続人か、遺言書で指定された受遺者となっています。

(3) 高額療養費の申請における必要書類
高額療養費の申請には、次のような書類が必要となります。申請先に事前に確認しておきましょう。

・高額療養費支給申請書…自治体や役所、健康保険組合の窓口やホームページからの
 ダウンロードで入手
・医療費の領収書
・相続人の戸籍謄本(被相続人との関係が分かるもの)
・その他
 身分証明書
 マイナンバーカード
 相続人全員の印鑑証明
 遺言書(受遺者が受取人の場合)
 代理人の場合は委任状 等々

(4) 高額療養費の還付請求の期限は2年以内
高額療養費の申請期限は「診療月の翌月の初日から2年間」です。2年以上を過ぎると時効をむかえてしまい、還付請求できなくなります。
亡くなった人の過去の未支給高額療養費は、遡って2年以内であれば還付請求することが可能です。
期限以内に申請するようにしましょう。

高額療養費の相続税における取り扱いや注意点

高額療養費は、相続税に関連して次のような取扱いや注意点があります。

(1)高額療養費の還付金は相続財産になる
故人の生前の医療費について、相続後に遺族等の相続人が高額療養費の支給申請をおこなって高額療養費の支給を受けた場合、その高額療養費は相続財産となります。高額療養費は、あくまで治療を受けた人=被相続人に対して支払われるものであるため、被相続人の財産ということです。
また、相続人が1人でない場合で、遺言書や遺言書に高額療養費の還付についての指定がない場合には、支給を受けた高額療養費は土地や建物と同様に遺産分割協議を行う必要があります。
なお、扶養されている人が亡くなった場合に、被保険者(健康保険に加入して扶養している人)が受け取る高額療養費の還付金は、故人の相続財産とはなりません。扶養されている人の高額療養費の還付金は、扶養している被保険者の権利であるからです。通常は健康保険料を負担している人が療養費も支払うことになるでしょうから、そう考えると分かりやすいと思います。

(2) 高額療養費の還付金を受け取ると相続放棄ができない
上記のとおり、高額療養費の還付金は相続財産にあたります。そのため、相続放棄する前に受け取ると相続放棄ができなくなります。相続放棄が認められた後でも、高額療養費の還付金を受け取ってしまうと、相続する意思があるとみなされて相続放棄が無効となってしまう可能性があります。故人に多額の負債がある場合には、還付金を受け取ることでその負債も相続することになってしまうため、特に注意する必要があります。
なお、扶養されている人が亡くなった場合の高額療養費の還付金は、前述のとおり故人の相続財産とはなりません。受け取っても相続を放棄することは可能です。

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