相続税は、相続または遺贈により受けた利益にその担税力を求めて課税される税金ですから、その財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担するときや、被相続人の葬式に要した費用を負担するときは、その負担分だけ財産の価格から控除して相続税の計算をすることができます。
債務控除をすることができる者
債務控除を適用することができる者は、被相続人の相続人及び包括受遺者です。この「相続人」には、本来、相続を放棄した者または相続権を失った者は含まれませんが、これらの者であっても、被相続人の葬式費用を現実に負担した場合には、その負担額は債務控除をすることができることとして取り扱われます。
納税義務者の区分により債務控除できる債務の範囲
相続人でも無制限納税義務者と制限納税義務者とでは、控除する債務の範囲が異なります。
無制限納税義務書と制限納税義務者の違いは、相続人の住所が国内か国外かで課税される相続の資産の対象が変わることです。
無制限納税義務者となれば、相続や遺贈で取得した財産の全てにおいて(国内・外問わず)納税義務を負うものとされています。相続時に国外にいたとしても、10年以内に国内に住所があった場合には、非居住無制限納税義務者となり、国内外の資産全てに相続税の納税義務を負うことになります。
一方制限納税義務者になれば、国内の財産にのみ相続税が課税されることになります。
それぞれの納税義務の違いにより、下記のような債務控除の違いがでてきます。
<無制限納税義務者が債務控除できる範囲>
・被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む)
・被相続人に係る葬式費用
<制限納税義務者が債務控除できる範囲>
・その財産に係る公租公課
・その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権または抵当権で担保される債務
・その財産の取得、維持または管理のために生じた債務
・その財産に関する贈与の義務 etc.
債務控除は相続税の課税される財産によって担保される債務に限られます。制限納税義務者は、相続遺贈により取得した財産のうち納税義務を負うものが制限されるため、葬式費用の控除が認められていないのです。
債務控除できる債務は
債務控除できる債務は以下の通りです。
①相続人または包括受遺者が承継した債務であること(相法13①)
② 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(借入金、未払金及び公租公課など)であること
(相法13①)
③確実と認められるものであること(相法14①)
例えば、金融機関からの借入金や未払の医療費・預り敷金で、公租公課には準確定申告による所得税・消費税、住民税や固定資産税などがあります。
控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定している者の金額のほか、被相続人に係るもので被相続人の死亡後相続人及び包括受遺者が納付し、または徴収されることになった所得税等の税額が含まれます。
公租公課の留意点として、相続人が期限後に申告した等により延滞税や利子税や加算税が発生したその分の額は控除すべき公租公課の額には含まれませんので注意が必要です。
控除対象とならない債務
被相続人の債務であっても、次に掲げる相続税の非課税財産の取得、維持または管理のために生じた債務の金額は、債務控除の対象となりません。
<債務控除の対象外のもの>
・墓所、霊廟及び祭具並びにこれらに準ずるもの
・個人の公益事業用財産
葬式費用の範囲
葬式費用は、相続税の課税価格の計算上、相続人または包括受遺者が負担したものを控除します。 葬式費用は、債務とは本質的に異なり、本来、遺族が負担すべきものであり控除できないように考えられますが、相続開始に伴う必然的出費であり、いわば相続財産そのものが担っている負担ともいえることを考慮して、控除することとされています。
相続税の課税価格の計算上、葬式費用として控除する金額は、次に掲げる金額の範囲のものです。
<葬式費用となるもの>
①葬式や葬送に際し、またはそれらの前において、埋葬、火葬、納骨または遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用
②葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
③上記①及び②に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
④死体の捜索または死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
<葬式費用に該当しないもの>
①香典返戻費用
②墓碑及び墓地の購入費並びに墓地の借入料
③法会に要する費用
④医学上または裁判上の特別の処置に要した費用