被相続人に借入金がある場合、その借入金も相続しなければなりません。
相続とは被相続人が所有する財産と債務を引き継ぐことであり、被相続人の借入金は債務に該当します。
相続の方法として、単純承認・限定承認・相続放棄の3つがあります。
相続人が被相続人の権利義務を全て承継することを単純承認といいます。
単純承認を行った場合は、権利義務を全て承継することになるため、仮に被相続人の債務が相続財産を上回った場合には、たとえその債務が個人間の者であったとしても、相続人は自らの財産で弁済を行う義務を負うことになります。
そのため、遺産に借金があるときには、限定承認又は相続放棄を行うことが対処法として考えられます。
借金の対処法(限定承認)
限定承認とは、被相続人の残した債務及び遺贈を相続財産の限度で支払うことを条件として相続を承認するという相続形態です。
相続人が複数人いる場合には、限定承認を行うときは共同相続人の全員が共同して行う必要があります(民法923条)。
限定承認の意思表示は、熟慮機関(原則として、自己の為に相続の開始があったことを知った時から3か月)内に財産目録を作成し、相続人全員で被相続人の住所地又は相続開始地の家庭裁判所に限定承認の申述書を提出する方法により行わなければなりません。(民法924・家事39別Ⅰ 92・201V・家事規105 I)
限定承認を行うと相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈の弁済義務を負います(民法922条)。
したがって、相続財産と相続人の財産は分離して取り扱われ、相続人が被相続人に対して有していた権利義務についても、相続による混同によって消滅することはありません(民法925条)。
なお、限定承認を選択した場合、撤回することはできません。
限定承認を行った場合、相続財産は相続人自身の固有財産から分離独立するとともに、相続財産をもって相続債権者及び受遺者に弁済するため、一種の清算手続きが行われることになります。
また、相続人の義務として、官報公告・請求の申出の催告や債務の弁済の義務が発生します。
借金の対処方法(相続放棄)
相続放棄とは、自己のために開始した不確定の相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示のことを言います。
相続放棄の意思表示は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、被相続人の住所地又は相続が開始される地の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する方法により行わなければなりません(民法938・家事39別1 95・201V・家事規105 Ⅰ)。なお、限定承認とは異なり、1人で行うことができます。
相続放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。
相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならないこととされています(民法940条)。
なお、相続放棄の撤回をすることはできません(民法919条)。
同一の被相続人との関係で重複した身分関係に立つため、異順位又は同順位による二重の相続資格を持っている相続人が相続の放棄をした場合、その放棄によってすべての相続権が失われるのか、それとも一方の資格による相続権のみが失われるのかについては争いがあります。
相続放棄の効果は絶対的であって、相続放棄をした者は、相続開始の時に遡って相続人とならなかったものとしてみなされ、相続放棄の効力は登記等がなくとも、何人に対しても抵抗することができます。
借金の対処方法(事実上の相続放棄)
相続の放棄は家庭裁判所への申述によってなされなければなりませんが、こうした方法によらないで、形式上は共同相続したことにして、事実上は自己の相続分を他の相続人のため放棄ないし譲渡することも行われています。
事実上の相続放棄とは、相続財産を受け取ることを放棄したのと同じ効力を実現する方法です。
事実上の相続放棄によるメリット・デメリットは以下の通りです。
- メリット
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①家庭裁判所の審判が不要で手続きが簡単
②熟慮期間を経過してからでも利用できる - デメリット
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①事実上の相続放棄によっては、債務を免れることはできない
②第三者に対抗するには登記が必要
事実上の相続放棄の流れとして、以下の2種類があります。
- 事実上の相続放棄をする相続人が、特別受益証明書又は相続分皆無証明書を作成し、相続分を取得する相続人の登記申請書類に添付する方法
- 遺産分割の形式を採りながら、実質上は特定の相続人がほぼ全ての遺産を取得する内容の法定相続分を無視した遺産分割協議書を作成し、相続登記をする方法
手順によって作成しなければならない資料や発行する証明書があるため、相続人でしっかりと話し合いを行ってから準備をする必要があります。
参考:鈴木潤子監修,「図解 民法(親族・相続)」,一般社団法人大蔵財務協会