「相続税の申告は亡くなったことを知った日から10カ月」ということだけを気にしていると、見落としがちな手続きがあります。どうしてもわからない場合は専門家へ相談するのも有効です。しかし少しでも知識があれば相談しやすくなります。例えばすみやかに申請すべき遺族年金があります。ここでは、相続税申告を中心とした手続きの流れについて解説します。
相続税申告の流れ(手順)の全体像
相続税の申告は、相続人となる人全員が必要になるとは限りません。「申告が必要かどうか」の判定から始め、結果的に申告不要になるケースも十分あります。次のようになります。
- 相続開始から3カ月以内にすべきこと
- 相続開始から4カ月以内にすべきこと
- 相続開始から10カ月以内にすべきこと
- 相続申告後にすみやかにすべきこと
相続開始から10カ月以内にすべきことは相続税の申告です。相続税の申告を仮にゴール地点と仮定するなら、そこへ向かうためにすべきこと、逆に底をゴールとしたために見落としがちな手続きがあります。
まずここでは「どのような手順で相続税の申告が進んでいくのか」について解説します。
相続開始から3ヶ月以内の手続き
この期間にポイントになるのは「相続放棄」と「限定承認」の手続きです。簡単にいうと、この期間に相続人が意思表示をしなければ被相続人の財産のすべてにおいて「引き継ぐ」手続きをしなければなりません。「この財産は欲しいけど、あの財産は必要ない」という権利の主張ができなくなるのです。では「相続放棄」と「限定承認」とはどのような行為なのでしょうか。
相続放棄
言葉の通り、「相続自体を放棄すること」です。もっと簡単にいえば「プラスの財産もマイナスの財産も必要ありません」と主張することで、同時にこの相続に関する意見ができなくなります。
限定承認
「条件付きで財産を引き継ぐこと」です。本来相続は、プラスの財産とマイナスの財産を共に引き継ぎますが、限定承認すると「プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐこと」になり範囲が限定されます。
相続開始から4ヶ月以内の手続き
亡くなった被相続人の確定申告(準確定申告という)期限です。生きていたころの所得税を納付(または還付)しなければなりません。準確定申告は、相続税の申告期限よりも先に到来するため、早めに申告完了させることが大切です。
準確定申告とは
亡くなった方が生きている間に発生している所得を税務署へ申告することです。通常、確定申告は1月1日から12月31日までの所得を翌年3月15日までに申告します。準確定申告の場合は1月1日から亡くなった日までの所得を申告。例えば、X年5月20日に亡くなったと仮定した場合、1月1日から5月20日までの所得税を9月20日までに税務署へ申告します。
相続開始から10ヶ月以内の手続き
相続税の申告期限は、亡くなった事実を知った時から10カ月以内です。4カ月以内に準確定申告を済ませたら、本題である相続税の申告に入ります。具体的には次に紹介する方法で申告業務を進めます。
- 法定相続人の確定
- 相続財産の確定
- 必要書類の収集
- 申告書の作成
- 申告書を税務署へ提出・納税
これで税務署への申告は完了です。ではそれぞれどのようなことをするのか簡単に紹介します。
- ①法定相続人の確定
-
被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を役所で取得します。このとき、認知している子を含め被相続人の子の確認を行います。また子がいない場合には、兄弟や両親などを確認します。これにより、基礎控除の金額の確認も行います。
- ②相続財産の確定
-
国税庁の定義により「経済的価値のあるものすべて」が相続財産です。この定義に沿って現預金や株など相続税の課税の対象となる財産を確定します。同時に、相続時精算課税の対象となる財産をはじめ贈与した財産があるかどうかの確認もします。
- ③必要書類の収集
-
相続人、被相続人の戸籍謄本をはじめ印鑑証明書、遺言書、遺産分割協議書を収集します。場合によっては不動産の評価額を算定しなければいけないため、名寄帳や固定資産税の課税明細も必要です。
- ④申告書の作成
-
結果的に申告不要となることもありますが、税額がある場合は必ず申告書を作成します。また税額が出なくても特例を適用している場合は申告書の提出が必須です。集めた資料もとに申告書を作成します。
- ⑤申告書を税務署へ提出・納税
-
作成した相続税の申告書を提出し納税することで相続税の申告業務は完了です。
相続税申告期限以降の手続き
税務上の手続きは10か月で完了します。しかし「手続き全般」という広範囲で見るとこれだけでは完了しません。そこには次のような手続きが残っているためです。
- 保険金の請求
- 埋葬料(公的な国民健康保険加入者・加入している種類により異なる)
- 葬祭費(公的な国民健康保険加入者・加入している種類により異なる)
- 高額医療費(相続の手続きの時に一緒に行ってもよい)
- 遺族年金の受給申請
これらの申請のほとんどは「すみやかに」に書類を提出することになっています。つまりよほど遅くならなければ、今すぐ提出する必要はないということです。しかし、遅くなればなるほど添付しなければいけない書類を紛失してしまう危険性があります。その点からもできるだけ早く手続きを済ますことをおすすめします。