代償分割とは、複数人の相続人に対し、土地や建物など相続財産に不動産が多い場合など、財産の分割がしにくい遺産を相続したときに用いられる遺産分割の方法です。特定の相続人がその遺産(マンションなどの不動産)を相続する代わりに、他の相続人に対して代償分割財産を渡します。
被相続人と同居していた自宅をそのまま相続人が引き続き住む場合、被相続人が経営していた法人を相続人が承継するために株式を相続する場合、被相続人が行っていた農業や事業などに使用していた土地や不動産を相続する場合に有効な分割方法です。
代償分割のメリット
代償分割には以下のメリットがあります。
(1)遺産分割を円滑に行える
相続財産に不動産が多く、相続人が複数人いる場合は遺産分割が難航するケースが多いです。
また、共有で土地を相続することになると、さらなるトラブルが発生する可能性があります。(不動産を売却する場合や建物を建築する場合に話がまとまらない等)
そこで代償分割を用いることにより、不動産を現状のまま単独で相続することができます。また、その他の相続人も遺産を円滑に処理できるメリットがあります。
例えば、被相続人が農業を行っており、被相続人の事業を引き継ごうと考えている相続人が居る場合、農地を共有またはそれぞれの相続人で遺産分割することになれば、スムーズな農業を継続することはできなくなります。代償分割を利用することにより事業を円滑に引き継ぐことが可能です。
また、被相続人が所有していた自宅に同居していた配偶者や子供にとっては、代償分割を利用することにより自宅を単独で相続しそのまま生活が継続できるため、環境が変わらないというメリットが生じます。
(2)遺産分割の公平性が保たれる
代償分割を利用することにより遺産分割を均等に行うことが可能になります。
不動産を相続した相続人と、その不動産の代わりとして代償財産を相続するそのほかの相続人に差が生じないように、公平に分割することができるのが最大のメリットです。
例えば、被相続人である親の土地5,000万円があり、それを子供である兄、弟の2人が相続することになったとします。
兄が土地を全て相続してしまうと弟が相続する財産が無くなってしまいますし、共有で相続すると、何をするにもお互いの意思確認が必要なり、土地の維持管理や売却の際にトラブルとなる可能性がとても高くなります。
また、共有はその兄弟の相続にも影響します。兄弟の子の代まで共有が続くため、さらに共有者が増えることにより今より一層もめる原因となります。
上記のような問題を未然に防止するために、代償分割を利用して兄が5,000万円の土地を相続する代わりに弟に対し2,500万円を支払うことにより兄弟は公平に遺産を相続することが可能となります。
(3)小規模宅地の特例を無駄なく利用し相続税の節税が可能
不動産を相続した相続人は「小規模宅地の特例」の適用を受けられる可能性があります。
適用を受けるためにはいくつかの要件がありますが、その要件に合致する人が土地を相続し、最大限「小規模宅地の特例」の適用を受けることにより、相続税をその分抑えることができます。
<「小規模宅地の特例」が適用できる土地>
・特定居住用宅地等…被相続人が住んでいた自宅等の土地(最大330㎡ 80%の評価減)
・特定事業用宅地等…被相続人が事業に使用していた店舗などの土地(最大400㎡ 80%の評価減)
・貸付事業用宅地等…被相続人が他人に貸し付けていた賃貸物件や駐車場
(最大200㎡ 50%の評価減)
・特定同族会社事業用宅地等…被相続人等が同族会社の発行済み株式を50%以上所有し、その法人に貸し付けていた事業用宅地等(最大400㎡ 80%の評価減)
代償分割は、相続財産の殆どが不動産の場合において複数人の相続人に対し遺産分割を行うためには非常に有効な手段です。
一方で使用するためには条件などを考慮する必要があります。ぜひ一度、相続税の申告に長けた税理士に相談することをお勧めします。
代償分割のデメリット
代償分割には以下のデメリットがあります。
(1)相続人には資金力が必要
相続で土地や建物など不動産を取得した相続人が、ほかの相続人に対し支払う代償金は相続人自身の蓄えから支払うことになります。支払う相続人に十分な資金力が必要になり不足している場合は安易に代償分割を用いるべきではありません。
代償分割金の支払いを一度に支払いうことが出来ない場合は分割も出来ますが、将来において未払が発生した場合は、ほかの相続人とのトラブルになるため注意が必要です。
(2)所得税や贈与税が課税される可能性がある
下記のようなケースでは課税される場合があります。
<代償分割の対象となる財産の価値より高額な代償金を支払ったケース>
相続人が不動産を取得し、代償分割を利用して支払った代償金がその不動産の価値より高額の場合は、その不動産の価格を超える金額の部分に対し贈与税が課税されます。
<代償分割を遺産分割協議書に記載しなかったケース>
遺産分割協議書とは相続人全員で遺産の分け方について話し合いを行い、全員の合意を得た内容を記載したものです。
この遺産分割協議書に代償分割を行った旨を記載する必要があります。代償財産や金額、いつまでに代償金を支払うか、などの期限を記載することにより贈与でないことの証明になります。こうすることにより贈与税が課税されることは無くなります。
<所得税が課税されるケース>
代償財産を不動産など現金以外で支払う場合には所得税が課税される場合があります。
(国税庁HPより)
代償財産として交付する財産が相続人固有の不動産の場合には、遺産の代償分割により負担した債務を履行するための資産の移転となりますので、その履行した人については、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税されます。
例えば被相続人である親の事業用土地5,000万円があり、それを子供である兄、弟の2人がすることになったとします。兄は事業を継続するために土地を全部相続し、その代償として兄が所有している土地(取得価格2,000万円、時価2,500万円)を弟に対し代償金の代わりとして渡した場合には、時価2,500万円-取得価格2,000万円=500万円に対し譲渡所得に対し兄に所得税が課税されます。
代償分割による相続税の計算方法は次の通りです。(国税庁HPより)
(1)代償分割の相続税の課税価格の計算
①代償財産を交付した人の課税価格は、相続または遺贈により取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額
②代償財産の交付を受けた人の課税価格は、相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額の合計額
この場合の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した人が他の共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始の時における金額になります。
ただし、代償財産の価額については、次の場合には、それぞれ次のとおりとなります。
(2)代償財産の価額
①代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されている場合には、その代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた価額となります。
②共同相続人および包括受遺者の全員の協議に基づいて、①で説明した方法に準じた方法または他の合理的と認められる方法により代償財産の額を計算して申告する場合には、その申告した額によることが認められます。
なお、代償財産として交付する財産が相続人固有の不動産の場合には、遺産の代償分割により負担した債務を履行するための資産の移転となりますので、その履行した人については、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税されます。
一方、代償財産として不動産を取得した人については、その履行があった時の時価により、その資産を取得したことになります。
上記(1)および(2)に関する事例については、次のとおりです。
<相続人甲が、相続により土地(相続税評価額4,000万円、代償分割時の時価5,000万円)を取得する代わりに、相続人乙に対し現金2,000万円を支払った場合>
①甲の課税価格…4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
②乙の課税価格…2,000万円
ただし、代償財産(現金2,000万円)の額が、相続財産である土地の代償分割時の時価5,000万円を基に決定された場合には、甲および乙の課税価格はそれぞれ以下のように計算します。
③甲の課税価格…4,000万円 - {2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円)} = 2,400万円
④乙の課税価格…2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 1,600万円