公正証書遺言の作成手順

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公正証書遺言とは?

公正証書遺言は、遺言者本人が、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を口頭で告げ、公証人が、それが遺言者の真意であることを確認した上、これを文章にまとめたものを、遺言者及び証人2名に読み聞かせ、又は閲覧させて、内容に間違いがないことを確認してもらって、遺言公正証書として作成します。

なお、民法では、「証人二人以上」と定められていますが、公証実務では、証人が3名以上になることはなく、証人2名で公正証書遺言が作成されます。

遺言者が遺言をする際には、どのような内容の遺言にしようかと思い悩むことも少なくないと思いますが、そのようなときも、公証人が、親身になって相談を受け、必要な助言をし、遺言者にとって、その意向に沿った最善と思われる遺言書を作成していくことになります。

公正証書遺言を作成する為の資料の準備

公正証書遺言の作成には、次の資料が必要です。公証人に依頼する場合には、これらを準備しておくと、打合せがスムーズに進行します。

  1. 遺言者本人の3か月以内に発行された印鑑登録証明書(公正証書遺言の性質に鑑み、公証実務では、遺言者の本人確認資料として、基本的に印鑑登録証明書を使用しています。なお、印鑑登録証明書に加えて、運転免許証、旅券、個人番号カード(マイナンバーカード)、住民基本台帳カード等の官公署発行の顔写真付き身分証明書も併せて遺言者の本人確認資料にすることもあります。)。
  2. 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  3. 財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には、その法人の登記事項証明書(登記簿謄本))
  4. 財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
  5. 公正証書遺言をする場合には、証人2名が必要ですが、遺言者の方で証人を用意される場合には、証人予定者の氏名、住所、生年月日及び職業をメモしたものを御用意ください。

公正証書遺言の作成手順

①公証人への相談及び依頼

公正証書遺言は、士業者や銀行を通じるなどして、公証人に相談や依頼をすることもできますが、必ずしも士業者や銀行を介する必要はなく、遺言者やその親族等が、公証役場に電話やメールをしたり、予約を取って公証役場を訪れたりするなどして、公証人に直接相談や依頼をしても一向に差し支えありませんし、実際にも、そのような場合が少なくありません。

②相続内容のメモ及び必要資料の提出

メール送信、ファックス送信、郵送等により、又は持参して、相続内容のメモ(遺言者がどのような財産を有していて、それを誰にどのような割合で相続させ、又は遺贈したいと考えているのかなどを記載したメモ)を公証人に御提出ください。
また、それとともに、メール送信(PDF等)、ファックス送信、郵送等により、又は持参して、2.で記載した必要資料を公証人に御提出ください。

③遺言者公正証書の案の作成と修正

公証人は、前記2で提出されたメモ及び必要資料に基づき、遺言公正証書の案を作成し、メール等により、それを当事者に提示します。
遺言者が、それを御覧になって、修正してほしい箇所を御指摘いただければ、公証人は、それに従って、遺言公正証書の案を修正します。

④遺言公正証書の作成日時の打合せと確定

遺言公正証書の案が確定した場合には、公証人は、遺言者が公証役場にお越しいただき、又は公証人が出張して、遺言公正証書を作成する日時について、当事者との間で打合せを行った上、確定します(事案によっては、遺言公正証書の作成日時が、最初に予定されることもあります。)。また、遺言公正証書の案が確定することによって、手数料の金額も確定するので、公証人は、当事者に対し、手数料の金額についても、事前にお知らせします。

⑤遺言公正証書の作成当日

作成当日には、遺言者本人から、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を改めて口頭で告げていただき、公証人は、それが判断能力を有する遺言者の真意であることを確認した上、前記4の確定した遺言公正証書の案に基づきあらかじめ準備した遺言公正証書の原本を、遺言者及び証人2名に読み聞かせ、又は閲覧させて、内容に間違いがないことを確認してもらいます(内容に誤りがあれば、その場で修正することもあります。)。
内容に間違いがない場合には、遺言者及び証人2名が、遺言公正証書の原本に署名し、押印をすることになります。
そして、公証人も、遺言公正証書の原本に署名し、職印を押捺することによって、遺言公正証書は、完成します

 作成当日に以上の手続を行うに当たっては、遺言者が自らの真意を任意に述べることができるように、利害関係人には、席を外していただく運用が行われています。もっとも、御夫婦が同時に遺言公正証書を作成する場合には、御夫婦の間で互いにその内容について十分な話合いを行われていることなどから、御夫婦に御異存がないときは、例外的に、御夫婦が同席したまま、御夫婦の遺言公正証書を作成することもあります。

公正証書遺言の証人について

 ①遺言者側が準備可能な場合

公正証書遺言をするためには、遺言者の真意を確認し、手続が適式に行われたことを担保するため、証人2名の立会いが義務づけられていますが、証人2名は、いずれも遺言者の方で準備することができます。もっとも、

  1. 未成年者
  2. 推定相続人
  3. 遺贈を受ける者
  4. 推定相続人及び遺贈を受ける者の配偶者及び直系血族等

は、証人になることができないので、御留意ください。

②遺言者が準備できない場合

適当な証人が見当たらない場合には、公証役場で紹介してもらうことができます。

遺言書原本の厳重な保管

さらに、遺言公正証書の原本は、公証役場に厳重に保管され、遺言者の死亡まで他人の目に触れることは絶対にありません。実際にも、遺言公正証書に関する情報漏れにより問題が起きたことも聞きません。

公正証書遺言を作成する場合の手数料について

公正証書遺言の作成費用は、公証人手数料令という政令で法定されています。ここに、その概要を説明しますと、次のとおりです。ただし、相談は、全て無料です。

手数料算出の基準

まず、遺言の目的である財産の価額に対応する形で、次のとおり、その手数料が定められています。

公証人手数料令第9条別表
目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額
具体的な手数料算出の留意点

上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには、次の点に留意が必要です。

財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言公正証書全体の手数料を算出します。

全体の財産が1億円以下のときは、上記(1)によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。これを「遺言加算」といいます。

さらに、遺言公正証書は、通常、原本、正本及び謄本を各1部作成し、原本は、法律に基づき公証役場で保管し、正本及び謄本は、遺言者に交付するので、その手数料が必要になります。

すなわち、原本については、その枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書きの公正証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。また、正本及び謄本の交付については、1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。

遺言者が、病気又は高齢等のために体力が弱り、公証役場に赴くことができず、公証人が、病院、御自宅、老人ホーム、介護施設等に赴いて、遺言公正証書を作成する場合には、上記(1)の手数料が50%加算されることがあるほか、公証人の日当と、現地までの交通費が掛かります。

公正証書遺言の作成費用の概要は、以上でほぼ御説明できたと思いますが、具体的に手数料の算定をする際には、上記以外の点が問題となる場合もあります。しかし、余り細かくなるので、それらについては、それが問題となる場合に、それぞれの公証役場で、御遠慮なくお尋ねください。

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