遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求への法改正で何が変わったか

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遺留分とは

遺留分とは、相続人が認められている相続遺産の最低限の取り分です。相続制度は、残された遺族の生活を守るための生活保障や潜在的持分の清算という機能をもっています。それに伴い、遺言書によって不公平な相続分の指定があったとしても、相続人には遺留分制度により定められている最低限の取り分を請求できる権利があります。この権利のことを「遺留分侵害額請求権」といいます。遺留分侵害額請求権があるのは、亡くなった方の両親、配偶者、子どもです。子どもが親より先に亡くなっている場合には孫にも遺留分があります。遺留分は本来の法定相続分に対する割合で決められています。

法定相続人

法定相続分

遺留分

配偶者のみ

1(全部)

1/2

子どものみ

人数で均等に分割

1/2

父母

人数で均等に分割

1/3

兄弟姉妹

人数で均等に分割

なし

配偶者と子どもが
いる場合

配偶者:1/2

子ども:1/2を人数で均等に分割

配偶者:1/4

子ども:1/4

配偶者と父母が
いる場合

配偶者:2/3

父母:1/3を人数で均等に分割

配偶者:1/3

父母:1/6

配偶者と兄弟姉妹が
いる場合

配偶者:3/4

兄弟姉妹:1/4を人数で均等に分割

配偶者:1/2

兄弟姉妹:なし

例えば、母親が亡くなり、子どもに長男と次男がいて、母親が遺言ですべての財産を長男のみに渡すことにしていた場合(父親はすでに他界していると仮定)、次男は本来の法定相続分である2分の1の2分の1、つまり4分の1の取り分を請求できます。

なお、遺留分が認められている相続人が遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは自由ですので、故人の遺志に任せたいという方は遺留分侵害額請求権を行使する必要はありません。

遺留分減殺請求

上記で述べた「遺留分侵害額請求権」は、2019年7月の法改正後のもので、旧法下では「遺留分減殺請求権」となっていました。旧法の遺留分減殺請求では、遺留分の権利者が自分の取り分を請求した場合、請求された側は取得した財産の遺留分に相当する分の財産を返還することになっていました。この財産の形態は決められておらず、また遺留分権利者は請求できる財産の形態を選ぶことができませんでした。

例えば、財産に現金と不動産があった場合に、遺留分権利者が現金のみでの請求を指定することができなかったということになります。基本的にはそれぞれの財産に対して遺留分に応じた持分を分配することとなっていました。
しかしその方法で遺留分の分配をすると、遺産に不動産がある場合には、必然的にその不動産は共有での名義となってしまいます。その後さらに相続の代替わりが起きた際は、減殺請求をした人とされた人それぞれの子などの共有の不動産となってしまい、権利関係がより複雑になってしまいます。

共有物の管理については共有持分割合の過半数をもって決定する必要があり(民法第252条)、また共有物の処分については共有者全員の同意が必要とされています(民法第251条)。
そのため、共有関係が複雑になってしまうと、共有物を扱いにくくなってしまうというデメリットが生じてしまうのです。遺留分で株式を所有することになった場合も同様で、株式が自動的に分配されてしまうことになり、会社経営に大きな影響を及ぼすことになってしまうことも考えられます。このような状況をふまえ、2019年7月の法改正にて「遺留分減殺請求」が廃止され、新たに「遺留分侵害額請求」の制度が施行されました。この改正により、遺留分侵害額請求で請求できるのは金銭債権に一本化され、不動産などの財産が共有のものになってしまうことはなくなりました。

遺留分侵害額請求

2019年7月の法改正にて成立した「遺留分侵害額請求」では、遺留分で請求できるのは原則、金銭債権に一本化されました。一括で払えない場合は分割での支払いも認められています。
これにより、従来のように不動産などが共有のものとなってしまう事態は生じないこととなりました。

なお、本改正による遺留分の権利者や割合に変更点はありません。そのため、遺言書に不公平な財産分与が記されていた際には、遺留分請求をする側は本来の法定相続分よりは取り分が少なくなってしまうことに変わりはありません。また、亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分が認められていないという点にも引き続き注意が必要です。

まとめ

2019年7月の法改正により、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変わったことで、遺留分で請求できる財産は金銭に一本化されました。これによって、不動産などの財産が共有のものとなることがなくなり、使い勝手の良い制度となりました。
もちろん、遺留分を請求された側は不動産や株の代わりに金銭が必要になりますが、分配しにくい不動産を無理やり共有の名義にしなくて済みようになりました。
しかし、遺留分は本来の法定相続分よりは少なくなってしまう点や亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分請求権が認められていない点には留意してください。

なお、遺留分侵害額請求は方式に特別な決まりはなく、口頭でも書面でも電子メールでも問題ないとされています。相手方との関係が悪くなければ、まずは口頭で打診することを視野に入れてもいいかもしれません。
しかし、遺留分侵害額請求権は、遺留分請求権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与あるいは遺贈があったことを知った時から遺留侵害額請求権を1年間行使しなかった際は、この権利は時効によって消滅してしまうこととなります。
よって時効の進行を確実に止めるには、権利行使をしたことを書面で残しておいたほうがよいでしょう。

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