遺言とは

遺言とは、故人が自らの死後に、「財産をどう残すのか」「どのようにわけるのか」という思いを遺した言葉や文章をいいます。

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遺言の役割

遺言は、遺言者の思いを確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が定められています。人は自分が死亡したあとに、自分の財産を自分の意思に基づいて残していきたいという思いを持っています。
その方法としては、相続人となる妻や子に対して、口頭で自分の意志を伝えることもあります。あるいは、自分が死んだ後に相続する人に見たり聞いたりしてもらう趣旨で、手紙やビデオなどを残しておくことも考えられます。こういった方法で、遺言者の思いを実現できれば全く問題はありませんが、相続人の間で利害が対立したりすることもあり、上記の方法だけでは不十分となるケースもあります。
そこで、財産を残す者(被相続人)の意思のみによって、その財産の処分を決める制度が必要となります、それが遺言を中心とする制度です。
民法上の法制度における遺言は、死後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいい、法律上の効力を生じさせるためには、民法に定める方式に従わなければならないとされています。(民法960条)

(民法960条 遺言の方式)
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

遺言の効力

亡くなった方が遺言を残している場合には、原則として、その遺言の内容に基づいて財産の処分が行われます。そのため、遺言に指定された者に対して包括又は特定の財産を引き継がせることができます。(遺贈) 
遺言がある場合には、必ず「誰が財産および債務を取得したのか」ということを確認してから、相続税の計算を行います。
一方、遺言がない場合や特定の財産又は債務のみしか記載がない遺言の場合には、ほかの残りの財産又は債務について遺産分割協議を行う必要があります。このように、遺言の有無によって、確認すべき書類や相続税の計算等が大きく変わってきます。
遺言の作成については、民法でルールが細かく決められているため、そのルール通りに作成されているかどうか必ず確認する必要があります。
もしルール通りになっていない遺言の場合には、その内容や場合によって、遺言そのものが無効になる可能性があります。無効になってしまうと、故人の重要な意思である財産の処分が実行されません。さらに、遺産分割協議も行う必要がでてしまいます。そのため、法律的に有効な遺言の作成を理解しておく必要があります。
遺言で実際によく使用されているのは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つになります。

遺言の種類と作成方法

民法では、普通方式の遺言3種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)を定めています。

(1)自筆証書遺言
遺言者が遺言の全文・日付および氏名を自書し、押印することにより成立する遺言です。2018年の相続法の改正により、相続財産の目録については、必ずしも自書することを要しないこととされました。
作成方法としては、
①遺言書の全文を自書する
②作成の日付を自書する
③氏名を自書する
④押印する
⑤訂正する

(民法968 自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(2)公正証書遺言
国の公的機関である公証人に作成してもらい、かつ原本を公証人役場に保管してもらう形式の遺言です。
作成方法としては、
①2人以上の証人が立ち会う
②遺言書が遺言の趣旨を公証人に口授する
③公証人が遺言者の口述を筆記し、遺言者・承認に読み聞かせ、または閲覧させる
④遺言者・証人が署名・押印する
⑤公証人が署名・押印する
公正証書遺言は、原本のほか正本・謄本が作成され、原本は公証人役場に20年間保管され、正本等は遺言者に交付されます。遺言者生存中は推定相続人である子らから公証人に対し、遺言書の閲覧等を請求することはできません。

(民法969 公正証書遺言)
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

(3)秘密証書遺言
上記2つの形式の遺言の中間的なもので、遺言書の存在は明確にしますが、内容を秘密として偽造・隠匿等を防止する遺言です。
作成方法としては、
①遺言者が証書に署名・押印すること
②遺言者が証書と同じ印章で封印すること
③遺言者が公証人1名と証人2名の前で事故の遺言書である旨、および住所氏名を申述すること。
④公証人が日付等を封紙に署名・押印記載すること

(民法970 秘密証書遺言)
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

(遺言の取り消し)
遺言書については、遺言作成者の判断のみ取り消すことが可能です。
遺言の種類によって、手続き方法は異なります。

①自筆証書遺言…原本を破棄または償却することで取り消したことになります。
②公正証書遺言…公証人役場で新しい日付の遺言書を作成することで、前回作成した遺言書は取り消されます。
新しい遺言書の文面に「以前作成した遺言書は全部取り消す」という文章を記載します。

(遺言が複数あった場合)
民法1023条で「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、 その抵触する部分については 、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定されています。

(遺言の書き直し)
遺言者が生きている間は、何度でも自由に書き直せます。 民法1022条では、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と規定されています。

<遺言のポイント>
・相続時のトラブルを防ぐために非常に重要
・法定相続人以外に財産を相続させたい場合に必要
・特別受益や遺留分への配慮を忘れない
・専門家に相談・依頼する

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