遺言書作成のコツ

相続では基本的に遺産分割協議(話し合い)により遺産分割がおこなわれます。

しかし、故人が適切な形式で遺言書を残していたとき、相続人の一人でも遺言書通りの遺産分割を希望した場合、遺言書通りの遺産分割がおこなわれます。

言い換えると、相続人全員が満場一致で遺言書通りの相続を拒否した場合は遺言書に従わなくてもよいことになります。しかし、遺言書の内容は相続人の誰かにとっては有利な内容であることが当然に想定できますので、適切な遺言書が作られていたときは遺言書の通りに遺産分割が進むと考えてよいでしょう。

一般に、相続される資産は均等に分割可能な現金資産だけでなく、均等分割も換金も難しい不動産や非上場株式を含むことがほとんどです。

自分の死後に、相続人の間でトラブルとならないように事前に準備しておくことも十分に必要と考えられます。もっとも、誰でもない自分自身で築かれた資産ですから、誰にどのような思いを乗せて残すのか、自分の資産の処分を決めることは当然の権利でもあります。

そういった意味では、遺言書を作成しておくことは有効となりますので、早いうちから遺言書の作成を視野に入れて遺言書作成のポイントを押さえておくことが大切です。

目次

“遺留分”と“開封のされ方”に気を付ける

適切な方法で作成した適切な内容の遺言書を、適切な方法で開封されなければ効力は生じません。

例えば、自宅保管をしていた遺言書が家族の誰かに見つけられ、相続が発生する前にその場で開封されてしまった場合、その遺言書の効力は否定される可能性が高くなります。開封された形跡があるということは誰かに書き換えられた可能性があるということになりますので、遺言書の効力を巡った争いとなった場合は否定されることが一般的です。

また、遺留分を侵す場合も遺言書の効力が否定されることがあります。遺留分とは遺言者の親・配偶者・子供のうち法定相続人となる者に残すべきとされている遺産額です。

参考までに、具体的な遺留分は以下の表の通りとなります。

遺留分請求権利がある法定相続人

遺留分

ケース1

配偶者のみ

1/2

ケース2

配偶者・子供

1/4・(子供合計で)1/4

ケース3

子供のみ

(子供合計で)1/2

ケース4

配偶者・親

1/3・(親合計で)1/6

ケース5

親のみ

(親合計で)1/3

問題となりうるケースを考えると、例えば、遺言書には“財産の全てを長男に譲る”という文言を記載したとしても、他の遺留分の権利者から遺留分の主張があれば遺留分の割合だけ相続財産を引き渡さなければなりません。そうなると、遺言者が経営者であった場合など、分割が難しい株式など扱いをどうするかなど具体的に引き渡す財産などの争いで長引くことも考えられます。

さらに、遺言書を作成した時点での遺言者の判断能力も遺言書の効力に関わってきます。遺言者が遺言書作成時点で認知症であったなど判断力に問題があったと考えられる場合は、誰かに遺言書の記載内容を指示されていたり、判断能力が正常であった時とは違う内容を記載している可能性が考えられるので、遺言書の効力が否定される要因となります。

つまり、具体的な効力の要件をまとめると、

  1. 遺言書作成時に故人に十分な判断力が認められること(遺言書作成時の意思能力が確認できること)
  2. 遺言書の遺産分割内容で一定の相続権利者に一定の相続を認めていること(遺留分を侵害しないこと)
  3. 遺言書は公の場で開封されること(開封は家庭裁判所、法務局もしくは公証役場にておこなうこと)

以上の3要件を満たす必要があります。
次に、遺言書の作成方法を見ていきます。 遺言書には3形式あります。

(1)自筆証書遺言

“自ら遺言書を書き、自宅保管し、開封は家庭裁判所にて行う。”

最もシンプルな作成形式ですが、遺言書がある場合に相続で争いが起こる可能性が最も高い作成形式にもなります。自筆により、形式も基本的に自由ですので、内容に不備があったり、自宅で発見された時点で直ぐに開封されてしまい、効力が否定されることが多くなります。 また、令和2年より、自筆証書遺言向けに、法務局が公表する遺言書様式・法務局保管のサービスが始まりましたので、もしこの作成形式によるのであれば、法務局の遺言書を利用された方が良いでしょう。

(2)公正証書遺言

“公証役場にて、相続予定人以外の2人以上の立ち合いを伴い、自分の希望通りに公証人に作成してもらって、そのまま公証役場で保管・開封”

相続にあたり利害関係のない2人以上の立ち合いが必要となる理由は、遺言者の遺言書作成時点の意思能力を保証するためです。また、基本的に公証人が様式などを揃えて作成するため内容の不備が少なく、そのまま公証役場にて保管してくれるので開封の不備もなくなります。遺言書3形式で最も不備が少なくなる方法といえるでしょう。

(3)秘密証書遺言

“自身で作成した遺言書を、相続予定人以外の2人以上と一緒に公証役場へ持ち込んだ後、自己保管し、開封は家庭裁判所にておこなう”

自筆証書遺言にひと手間加えたような形式になります。基本的に自筆証書遺言と同じですが、さらに公証役場に遺言書を作成したという事実を保証してもらいます。これにより、いざ相続が始まった時、遺言書が自宅のどこかに保管されたまま遺言書の存在が気付かれないうちに相続が終わる、という事態を避けることができます。しかし、自己保管・開封は家庭裁判所ということは変わりませんので、注意が必要です。

相続財産の配分について

「適切な方法で作成した適切な内容の遺言書を、適切な方法で開封されるよう準備しておくこと」、これが守られていなければ、単に遺産分割の話し合いだけでなく、不備のある遺言書の効力を巡って更なる火種となりかねません。

また、相続にあたっては相続税も考慮する必要があります。令和4年現在、所得税の最高税率は45%であるのに比べ、相続税は最高税率55%と高くなっています。

相続にあたっては、相続配偶者控除や保険金非課税枠、生前贈与の利用など税制上のメリットが大きく受けられる制度が多くある一方、2次相続や相続税納付用の現金確保など考慮すべきことも多くあります。財産を賢く後世へ遺すためにも、まずは最適な相続方法を知ることも重要です。

税務については税理士が専門家としておりますので、迷ったらまず相談されることをお勧めします。

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