不動産を持つ会社の売却とは? 注目の不動産M&A‼

近年、老舗企業の廃業と同時に、不動産M&Aが行われるケースが増えています。事業承継や不動産売買と何が違うのか説明します。

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不動産M&Aとは何か?

東京23区内の一等地には、歴史と伝統のある企業が数多く残されています。創業百年の歴史のある企業も珍しくありません。規模も大きな優良企業となっていれば、このまま存続させるべきでしょう。しかし、現実は異なります。経営環境の変化についていくことができず、多くの企業が廃業の危機にある赤字企業になっているのです。歴史が長い企業ほど、古い企業文化やビジネスモデルを変えることができず、時代の流れに取り残される傾向にあります。そのため、赤字であっても事業を転換することができず、時間の経過とともに企業価値が減少していきます。その一方、老舗企業の持つ経営資源の中でも、価値が増加し続けるものがあります。それは土地です。

歴史ある企業は、とても昔、昭和の時代に土地の取得しているため、その含み益は大きくなっています。結果として、企業の株式評価額が大きくなり、相続税負担が大きな問題となるのです。このため、近年、多額の含み益を持つ土地がある場合、廃業と同時にM&Aで売却されるケースが増えてきているようです。これを不動産M&Aといいます。

土地にアパート・マンションを建てて不動産賃貸経営を行おうとするのであれば、そのまま経営を継続できますが、後継者がおらず、誰も経営を行おうとしない場合、土地を持っている必要が無くなります。そのため、土地を売却して現金化しようというニーズが生じるのです。

不動産M&Aは、不動産だけが売却されるのではなく、会社が丸ごと売却されるM&Aです。このようなM&Aが行われる理由は、事業の承継ではありません。不動産の売買に伴う税負担の軽減にあります。会社が主体となって不動産だけを売却すれば、法人税等が約30% 課され、その受け取り代金を株主に分配すれば、株主に対して所得税等が約50%課されます。結果として、土地の譲渡代金から税金を差し引いた手取り金額は、譲渡価格の約30%になってしまいます。これに対して、不動産M&Aを行って会社の株式を売却すれば、オーナー個人に対して譲渡所得が発生しますが、所得税等が約20%課されるだけで済みます。この税負担の有利さが、不動産M&Aの人気の理由です。ただし、不動産M&Aの実務手続きには、宅地建物取引士の知識だけでなく、会社法やファイナンスの知識、買主との交渉、税務の知識を必要とします。そのような実務手続きは容易なものではありません。

不動産M&Aが有効とされる理由とは?

2019年頃から、東京都心部・23区内を中心に不動産価格の上昇が続いています。東京オリンピックの後は下がると言われていましたが、2022年になってもまだまだ高止まりが続きそうです。東京23区内の買主の需要は、大きくなる一方です。この一方で、東京23区内の不動産の供給は増えていません。主要な地域の再開発が進んでしまい、新しい不動産開発の対象となる土地が無くなってしまったからです。今後の不動産開発のターゲットはどこでしょうか。これには事業承継問題が関連します。

東京23区内には、古くから商売を続けてきた歴史ある企業の本社ビルや店舗がたくさんあります。老舗旅館、老舗料亭、人気のお菓子屋さんのような老舗店舗など、100年を超える歴史を持ち、何代にもわたって続いてきた長寿企業です。このような素晴らしい企業であっても、いつか廃業を迎えます。そのときに不動産M&Aが有利な売却スキームとなるのです。廃業の後に土地を放置するのは、わが国経済にとっても大きな価値の損失です。賃貸オフィスでも賃貸マンションでも構いませんが、不動産を有効活用したいと考える買主に渡してしまい、早く再開発すべきでしょう。一方、廃業しても土地という優良な経営資源が残るわけで、それを放置するというのは無駄なことです。オーナーは、使用しない土地を現金化することで、安定的なセカンドライフを送ることができます。もちろん不動産M&Aには、廃業という重大なイベントが伴います。しかし、赤字続きの事業を抱えて、オーナーの個人財産を失い続けるような状態を放置する必要はありません。 黒字化できる同業他社へ事業譲渡することができれば理想的ですが、それができない場合は、廃業すればよいのです。

廃業は悪いものではない

一般的に、「廃業」という言葉には、回避すべきもの、事業の終わりだという否定的イメージが伴います。「廃業」が法人(会社)の解散・清算のことを意味すると誤解されるケースも多く見られます。この点、「廃業」の正しい意味は、個人事業主または法人(会社)オーナーが運営主体の立場から退くことです。引退して経営を辞めるのと同時に、使える経営資源を第三者に譲渡すれば、その廃業において社会的損失は発生しません。つまり、第三者へ事業承継することができれば、経営者の引退が発生しても、問題はないのです。

近年、IT技術革新が急速に進み、AI・人工知能やロボットといった新技術を活用した経営効率化、生産性向上が求められています。そのためには、事業規模を拡大して資金力を強化なければいけません。1社が単独で生き残るよりも、複数の会社が事業統合して、本社経費など間接コストの削減、広告宣伝費など営業コストの削減など経営効率化を行えば、余剰資金を捻出することができます。その資金をIT技術の投資に充てることができれば、生産性が向上するはずです。その一方で、事業に使用しなくなった土地は、他の事業者へ譲渡し、新たな価値を生み出す事業へ使用されるべきなのです。今後は、不動産M&Aを活用する事例が増えてくると思われます。

出展:
公認会計士/税理士 岸田康雄著「相続生前対策パーフェクトガイド」
「富裕層のための相続税対策と資産運用」より日本ビズアップが編集

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