法定相続人なのに遺産が受け取れない場合とは?
法定相続人であれば、普通であれば、遺産相続が受け取れるはずです。しかし、被相続人の意思又は、共同相続人の中の一人の意思次第で、法定相続人でも遺産が受け取れないことがありえるのです。遺産が受け取れないのは、どのような場合なのでしょうか。
「特定の一人にすべて遺産を相続させる」との遺言書がある場合
「長男にすべて遺産を相続させる」など、相続人のうち特定の一人のみに遺産を相続させる旨の遺言書が見つかるケースがあります。被相続人の強い希望により、このような遺言書が作成されることは珍しくありません。しかし、そうなると、他に法定相続人がいる場合はそれぞれの取り分が受け取れず、身内で相続争いが起こる可能性があります。
「特定の一人にすべて遺産を遺贈する」との遺言書がある場合
被相続人の介護を一手に引き受けていた友人など、法定相続人にはあたらないものの献身的に被相続人を支えていた人物に対して遺産をあげたいとの遺言書を残す方もいます。このように法定相続人以外の人物にすべて遺産を遺贈するとの遺言書が見つかると、受遺者となる方と法定相続人がもめることが多いでしょう。
被相続人から生前贈与があった場合
被相続人の生前に結婚資金や孫の教育資金、住宅購入資金の援助と称して多額の生前贈与を受ける方も少なくないと思われます。この場合、生前贈与されていた金額や時期によっては遺産が受け取れなくなることがあります。
ただし、一部の相続人や第三者が生前贈与を受けていても、取り戻せる可能性のある場合があります。それは以下の場合です。
- 相続開始前1年以内の生前贈与
- 被相続人と受遺者の双方が遺留分を侵害すると知っていて行った生前贈与
- 相続開始前10年以内になされた、相続人の特別受益(住宅購入資金、婚姻の際の持参金など)となる生前贈与
「母の面倒を見るから」とひとりの親族が遺産をひとり占めしてしまった場合
親族の一人が「自分が母の面倒を見るから」と言って、遺産をすべて独り占めした場合、ほかに法定相続人がいても相続財産が受け取れない可能性があります。その場合、財産に何がどのくらいあるのかを教えてもらえないことが多い上に、財産をいつのまにか使い込んでしまう恐れもあります。
遺産が受け取れないときに相続人ができること
遺言の内容やほかの法定相続人によって遺産が受け取れないときに、相続人にできることは、主に2つあります。遺留分を主張することと、遺言が無効であることを主張することです。
遺留分を主張する
まずは、遺留分を主張することです。遺留分とは、最低限保障される遺産の取り分のことです。兄弟姉妹以外の法定相続人は、この遺留分が侵害された場合、遺留分を侵害した相手に対して遺留分を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。以前は「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが、令和元年7月施行の改正相続法により「遺留分侵害額請求権」へと名称が変わりました。
遺留分は本来、遺族の生活保障のためにある制度です。原則として自分の財産は死後好きなように分配できるのですが、遺された家族が遺産をあてにしていた場合、遺産がいきわたらなければたちまち生活に困ってしまいます。
遺産が特定の法定相続人に集中してしまったり、法定相続人に遺産が全く相続されないような場合に、法定相続人には遺留分として認められる遺産の取り分を請求する権利があります。遺留分の主張をすることによって、侵害されている遺留分を取り戻すことができるのです。
遺言が無効であることを主張する
特定の誰かに遺産を相続させる、もしくは遺贈させるとの遺言書が見つかった場合、遺言が無効であることを主張する方法もあります。たとえば、自筆証書遺言の場合、法律上の形式要件を満たしていないことが考えられます。
また、被相続人が認知症だった場合、遺言書を執筆した時点ですでに認知症の症状が出ており、自分の意思で遺言書が書けなかったかもしれません。そのような可能性があることを証明できれば、遺言が無効となり、遺産分割協議をひらいて法定相続分を得られる可能性が高くなります。