事業承継における会社を取り巻く課題

ここでは事業承継とはどのようなもので、どういった承継方法があるのか、とりわけ自社株対策について中小企業経営者が抱える課題と対処法を整理しました。

我が国の地域経済や雇用を支えている中小企業は、国内経済の大きな柱です。将来に渡ってその活力を維持していくには、円滑な事業承継によって次世代に引き継ぐことが必要です。 その一方で事業承継を取り巻く現状は、経営者の平均年齢は上昇し、経営者年齢の高い企業においては後継者が不在になっている場合も多く、コロナ禍以前から休廃業・解散件数が増加傾向にあります。国としては、この現状に歯止めをかけるため、事業承継税制(納税猶予制度)の大幅緩和や中小M&Aガイドラインの作成、事業再構築指針の策定など事業承継の先を見据えた対策を進めてきています。しかし、中小企業における事業承継の形態は様々です。会社規模、株主構成、資産構成、後継者の有無、親族の仲の良し悪しなど、その要因に対する課題はそれぞれ違い、解決方法もそれぞれ違ってくるものです。各企業のオーダーメードの事業承継対策を税法や、民法、会社法等を駆使していく必要性があると感じます。

目次

事業承継とは?

「事業承継」とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことです。近年、中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化が進む中で、事業承継は重要な経営課題になっています。

「後継者を誰にするか」「どのように引き継ぐか」「事業承継を行う上での税金対策はどうするか」など様々な面から考えていかねばならず、頭を抱える経営者の方も多いはずです。

① 事業承継で引き継ぐ対象は 「人」「資産」「知的資産」

「人」とは、経営にあたる後継者です。中小企業・小規模事業者のなかには、後継者が見つからないため、引き継ぐことができずに、廃業せざるをえないケースもあります。

「資産」とは、自社の株式、資産、資金などです。自社株式の取得にともなう相続税や贈与税の負担、事業承継後の資金繰りなども検討します。

「知的資産」とは、目に見えない(形がない)資産です。経営理念、人脈や顧客との信頼関係、チームワークや組織力、ブランドや人材力などそれにあたります。とくに中小企業の場合は目に見える資産よりも目に見えない知的資産が、利益の源泉であり成長の原動力であるケースが多いのです。

事業承継における3要素

人(経営)

  • 経営権
  • 後継者の選定・育成
  • 後継者との対話、意思確認
  • 後継者教育

資産

  • 自社株式
  • 事業用資産(設備・不動産等)
  • 資金(運転資金・借入金等)
  • 経営者保障

知的資産

  • 経営理念
  • 経営者の信用
  • 取引先との人脈
  • 従業員の技術・ノウハウ
  • 顧客情報
  • 許認可

② 事業承継のタイミング、後継者育成にかかる時間

親族内承継の場合、5年超の準備期間を意識するところが多く承継にむけ様々な準備をしています。事業承継は「計画は早く、実行は時間をかける」ことが成功のポイントです。

現経営者が事業承継前(5年程度)に承継にむけて実施した取組
  • 先代経営者とともに経営に携わった
  • 他社での勤務を経験した
  • 取引先、金融機関との関係を引き継いだ
  • 自社事業の技術・ノウハウについて学んだ など

事業承継時の選択肢 ~3つの類型~

ここでは、事業承継を「親族内承継」「親族外承継(従業員承継)」「社外への引継ぎ(M&A等)」の3つの類型に区分しました。それぞれの承継方法には様々なメリット・デメリットがあります。

①親族内承継

中小企業の事業承継で最も多いのは、子どもなどの親族に経営を引き継ぐケースです。親族内承継の場合は、後継者を早めに設定することができ、長期的な育成ができるという利点があります。また、会社の所有(自社株等)と経営を一体的に引き継ぎやすいため、スムーズな事業承継が期待できます。

メリット

  1. 早めに後継者を決めることができるため、長期の準備期間を確保できる。
  2. 関係者や取引先に受け入れられやすい。
  3. 他の方法と比べ、経営と所有の分離を回避できる。

デメリット

  1. 相続人が複数いる場合に争いがおこる可能性がある。(後継者以外の相続人に配慮が必要)
  2. 親族内に、経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限らない。
②親族外承継

経営者に近い立場で経営に携わってきた従業員に経営を引き継ぐケース(従業員承継)もあります。経営の継続性の面ではメリットがありますが、従業員が株式取得の資金を調達できるかなどの課題もあり、早めに対策を立てる必要があります。

メリット

  1. 親族外だけでなく、会社の内外から広く候補者を求めることができる。
  2. 業務に精通しているため、他の従業員などの理解が得やすい。
  3. 特に社内で長期間勤務している従業員に承継す る場合は、経営の一体性を保ちやすい。

デメリット

  1. 親族内承継の場合に比べ、関係者から心情的に受け入れられにくい場合がある。
  2. 後継者候補に株式取得等の資金力がない場合が多い。
  3. 個人保障債務の引継ぎ等に問題が多い。
③社外への引継ぎ(M&A等)

後継者が親族内、社内の役員・従業員に見つからない場合は、第三者による引継ぎ(M&A等)を検討します。M&Aにあたっては、会社の「磨き上げ」により企業価値を高めることが重要です。企業価値を高めることで、より良い譲渡先が見つかる可能性や譲渡価格が上がる可能性があります。

メリット

  1. 身近に後継者に適任な者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができる。
  2. 現経営者が会社売却の利益を獲得できる。

デメリット

  1. 希望の条件(従業員の雇用、価格等)を満たす買手を見つけるのが困難である。
  2. 経営の一体化を保つのが困難である。
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