法定相続人は、配偶者、子(子が亡くなっている場合は孫)、親(親が亡くなっている場合は祖父母)、兄弟(兄弟が亡くなっている場合は甥・姪)とされています。内縁の妻・夫は、法定相続人には含まれていません。法定相続人がいない場合は、内縁の妻・夫には相続財産は渡らず、最終的に国庫に帰属されることになります。
しかし、遺言書による遺贈を行えば、内縁の妻・夫にも相続財産を渡すことができます。
また、家庭裁判所の判断が必要となりますが、ある一定の要件を満たす者【特別縁故者】と認められれば被相続人の財産を相続することができます。
遺言書による相続の方法
内縁の妻・夫に相続財産を渡すには「遺言書作成」という方法があります。特別縁故者による相続財産の相続では、法定相続人がいる場合には特別縁故者は財産を相続することはできません。しかし、遺言者による遺贈であれば、法定相続人がいたとしても遺言書に記載されているものは、確実に内縁の妻・夫に相続財産を渡すことができます。
ただし、遺言書で相続財産を遺贈する場合は、次のような点に気を付ける必要があります。
① 遺留分に気を付ける
妻や子などの法定相続人には、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分の「遺留分」というものが認められています。これは被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
被相続人が財産を遺留分の権利を持つ者以外に贈与又は遺贈し,遺留分権利者が遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合,遺留分権利者は,贈与又は遺贈を受けた者に対し,遺留分を侵害されたとして,その侵害額に相当する金銭の支払を請求することできます。これを遺留分侵害額請求権といいます(民法1046条1項)。
そのため、仮に財産のすべてを内縁の妻・夫に遺贈すると遺言書に記載してあった場合でも、遺留分に関しては請求される可能性があるので、その分も考慮して遺言書を記載する必要があります。
法定相続人が持つ遺留分については次の表のとおりとなっています。
遺留分とは
遺留分制度は、相続人のうち一定の者について、必ず一定の割合の相続分を確保できるという制度である。この割合を「遺留分」という。
なお、民法では、遺留分を下記の通り定めている。
相続人の態様 | 相対的遺留分の割合 |
相続人が直系尊属(父母など)のみ | 遺留分算定の基礎となる財産の1/3 |
兄弟姉妹 | なし |
上記以外(配偶者や子など) | 遺留分算定の基礎となる財産の1/2 |
兄弟姉妹には遺留分がないことに留意が必用である。
② 遺言書の書き方に注意する
遺言書には、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。このうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言は、その文面を被相続人以外は第三者が事前に確認しなくてもよいものとなっているため、仮に内容に不備があった場合は相続時点で無効となってしまう可能性があります。そのため、公証人と証人に事前に内容を証明してもらえる公正証書遺言による遺言書の作成をおすすめします。
遺言書の方式
遺言の方式 | 概要 |
自筆証書遺言(※) | 遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、押印したもの |
公正証書遺言 | 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授するなど一定の要件を備えた公正証書により行なったもの |
秘密証書遺言 | 遺言者が署名押印して封印した遺言書を公証人及び証人の前に提出し、遺言者の遺言書であることの証明を受けたもの |
※平成30年民法改正により、財産目録等を添付する場合には、その目録については、自書することを要しないこととされた。
遺言書方式の比較
区分 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
作成場所 | どこでもよい | 公証役場 | 公証役場 |
証人 | 不要 | 2人以上 |
公証人1人及び証人2人以上 |
作成者 | 本人 | 公証人 | 本人(代筆可) |
署名捺印 | 本人 | 本人、公証人、証人 | 必用 |
家庭裁判所の検認 | 必用 | 不要 | 必用 |
メリット | ●1人で作成できる ●費用がかからない ●遺言の存在と内容を秘密にできる |
●公証人が作成するので方式不備にならない ●公証役場で保管するので、紛失等の恐れがない |
●遺言の内容を秘密にできる |
デメリット | ●方式、内容不備で無効となる可能性がある ●遺言書が発見されない可能性がある |
●作成に手間と費用がかかる | ●方式、内容不備で無効となる可能性がある ●作成に手間と費用がかかる |
特別縁故者とは?
特別縁故者とは簡単にいうと、亡くなった被相続人と特別親しい人のことを言います。民法では、
①被相続人と生計を同じくしていた者
②被相続人の療養看護に努めた者
③その他被相続人と特別の縁故があった者
とされています(民法 第九百五十八条の三。)
過去の判例で特別縁故者として認められたパターンとして、
①の被相続人と生計を同じくしていた者の、内縁の妻・夫、血縁関係の無い養親、先妻・先夫またはその子、子の妻または夫などが認められたことがあります。
②の被相続人の療養看護に努めた者では、近所の人で世話や葬儀を行った者、看護師で報酬以上の働きをした者(通常の業務の範囲での療養看護では認められません)などが認められたことがあります。
③のその他被相続人と特別の縁故があった者とは、生計を一にせず、療養看護に努めてはいないが、被相続人の特別な信頼を受けていた者や、被相続人の身元引受人となっていた者、精神的な拠り所となっていた者などが認められたことがあります。
上記の例にもあるように特別縁故者と認められれば内縁の妻・夫であっても被相続人の財産を相続することができます。
ただ、上記のような例に近いことを行っていたとしても特別縁故者に必ずなれる訳ではなく、家庭裁判所に申し立てを行い、その決定を受ける必要があります。
特別縁故者が財産を相続されるまで
被相続人が死亡してから、特別縁故者が相続財産を相続するまでの流れは以下の通りとなっています。
① 相続財産管理人の申し立て |
相続財産管理人とは、被相続人の財産及び債務を管理する役割を担う者になります。こちらは家庭裁判所に申し立てをして選任を受ける必要があります。 |
② 官報公告による相続人調査 |
上記の相続財産管理人の選定後、官報により公告され法定相続人の捜索が行われます。官報公告後6か月以内に法定相続人が見つかった場合は、特別縁故者に相続は行われず、その法定相続人が相続財産を相続することになります。 |
③ 被相続人の債務の支払・受遺者への遺贈 |
上記の官報公告から2か月以内に法定相続人が見つからない場合は、債権者や受遺者に対して公告をします。債権者や受遺者から請求があった場合は相続財産管理人がこれらの清算をおこないます。 |
④ 相続人の不存在の確定 |
②の公告から6か月経過した場合に相続人の不存在が確定されます。 |
⑤ 財産分与の申し立て |
④の確定後3か月以内に家庭裁判所に特別縁故者に対する相続財産分与の申し立てを行います。この申し立て後、特別縁故者と認められれば、被相続人の相続財産を相続されることになります。 |
まとめ
見てきたように、パートナー(内縁の妻・夫)に財産を残したい場合には、公正証書遺言での遺言作成が有効です。パートナーが特別縁故者と認定してもらえるかどうかわかりませんし、公正証書遺言以外の遺言では内容が無効とされてしまうリスクがあるからです。また、パートナーに渡す財産は、他の相続人の遺留分を侵害しない範囲にとどめておくのが得策です。遺留分を侵害された相続人から訴えを起こされることもなく、確実にパートナーに財産を渡すことができます。