遺言書があれば相続財産を法定相続割合に従わずに相続ができます。例えば「会社は長男に継がせたい」、「老後の面倒を見てくれた長女にはこの自宅に住んでもらいたい」など、自身の意思を尊重することができます。もちろん、特定の相続人に対して極端に多くの資産を分けた場合、他の相続人が遺留分の侵害請求権(遺留分の侵害があった場合、その分を取り戻す権利)を主張してくる可能性が残ります。したがって、遺留分についても考慮して遺言を書く必要があります。
遺留分について
遺留分とは
遺留分とは相続人に保護されている最低限の遺産の取り分のことです。例えば被相続人が見知らぬ第三者に遺産のすべてを渡すと遺言書に書いてあったとしても、相続人は最低限度の取り分である遺留分だけは相続できます。このような極端な遺言が行われた場合であっても、その遺言が無効になるわけではありません。相続人は遺留分を下回った部分について現金の支払いを求めることができます。これを遺留分の侵害額請求といいます。
ただし、侵害額請求を行うべき遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、その後は請求できなくなります。また、遺贈があったことを知らなくても、相続開始日から10年を過ぎてしまえば、侵害額請求を行うことができなくなります。
遺留分の権利者
遺留分は、配偶者、子供またはその代襲相続人、親に認められています。これらの人を遺留分権利者といいます。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。遺留分は相続開始日以降であれば自由に放棄することができますが、相続開始前に放棄する場合は家庭裁判所の許可を受けなければなりません。
遺留分の割合
遺留分の割合は配偶者、子供またはその代襲相続人の場合、法定相続分の2分の1です。親のみの場合は、法定相続分の3分の1です。例えば相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者の遺留分は法定相続分である2分の1の2分の1、つまり4分の1となりますが、子供たちの遺留分は法定相続分である4分の1の2分の1、つまり8分の1となります。
| 相続 | 関係 | 相続人 | 遺留分の割合 |
|---|---|---|---|
| 子がいるとき | 配偶者がいるとき | 配偶者 | 1/2×1/2=1/4 |
| 子 | 1/2×1/2=1/4 | ||
| 配偶者がいないとき | 子 | 1/2 | |
| 子がいないとき | 配偶者がいるとき | 配偶者 | 1/2×2/3=1/3 |
| 親 | 1/2×1/3=1/6 | ||
| 配偶者がいないとき | 親 | 1/3 | |
| 子も親もいないとき | 配偶者がいるとき | 配偶者 | 1/2 |
| 兄弟姉妹 | なし | ||
| 配偶者がいないとき | 兄弟姉妹 | なし | |
| 子・親・兄弟姉妹もいないとき | 配偶者がいるとき | 配偶者 | 1/2 |
| 配偶者がいないとき | 遺言書がなければ相続人の特別縁故者に分与されるものを除いて、遺産はすべて国庫に帰属することになります。 | ||
遺言書の効力が無効になってしまうケース
①自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言は全文と日付、氏名を名前で書き、押印しなければなりません。したがってパソコンで書いたり、音声を録音したりしたものは、法律上効力がある遺言書になりません。ただし自筆証書遺言の財産目録については必ずしも自分で書く必要はありません。
②公正証書遺言の場合
公正証書遺言は公証人が作成するので、無効になることはほとんどなく、あまり心配する必要はないでしょう。ただし、遺言者の能力や、証人の立会いなどの手続きが裁判で争われたことはあります。
③秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言で気を付けるべきポイントは、自筆証書遺言とだいたい同じです。
自筆証書遺言書帆保管制度について
自筆証書遺言を法務局において保管する遺言書保管制度が創設され、令和2年7月から運用が開始されました。自筆証書遺言書の問題点として、遺言書の保管・管理の仕方が指摘されていましたが、遺言書の保管・管理を行政機関である法務局が代行してくれることで解消できます。
自筆証書遺言書保管制度を利用するメリット
① 自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)
自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)が保管してくれますので、紛失、忘失を防げます。また、遺言書を法務局が保管していることを周囲の人間に知らせておけば、死後も遺言書が発見されないということを防げます。
② 遺言書の原本を法務局が保管
遺言書の原本を法務局で保管するため、相続人などによって遺言書の内容を改ざん・書き換えされることがありません。
③ 法務局(遺言書保管所)が遺言書の外形的な確認
法務局(遺言書保管所)が保管する際に、遺言書の外形的な確認(民法に定められている厳格な方式に適合しているかの確認)もしてくれますので、方式不備による遺言書の無効といった事態を防ぐことができます。
④ 面倒で時間のかかる検認手続きが不要
前述の通り、自筆証書遺言書や秘密証書遺言書に基づいて相続登記や金融機関での手続きを行う場合、事前に家庭裁判所で検認手続きを経なければなりません。また、検認手続きのための手間と時間もかかります。一方で、本制度を利用した自筆証書遺言の場合は、検認手続きが不要ですので、遺言者の死後、速やかに遺言書の内容実現が可能となります。
⑤ 遺言書確認の通知がさせる
一部の相続人が本制度利用の遺言書の存在を知って、遺言書の内容を確認(遺言書情報証明書の交付請求・遺言書の閲覧など)すると、その他の相続人や遺言執行者・受遺者に対して、法務局で遺言書を保管していることを知らせる通知が行われるので、相続に関係する人々も遺言書の存在・内容を知ることが可能になります。法務局に支払う手数料は保管年数、枚数などにかかわらず、申請1件につき3,900円です。このように保管制度は、自筆証書遺言のデメリットを大きく減らすことができるので、自筆証書遺言を選ぶならば、是非とも利用するべきでしょう。
遺言の執行
遺言執行者について
遺言の内容を実行するための手続きを「遺言の執行」といいます。遺言で遺言執行者が指定されている場合は、その者が行うこととされています。遺言執行者は相続財産の管理・処分する権利を持ち、相続人が勝手に財産を持ち出すことはできません。遺言執行者は複数でもよいとされています。相続を争いなく円滑に進めるために、相続人ではなく利害関係のない第三者を遺言施行者に指定し、遺産分割が行われるケースが多いようです。遺言執行者の任務はどの内容も法律の専門知識を必要とするので、弁護士などの専門家に依頼するとよいでしょう。遺言執行者は必ず指定しなければいけないものではありませんが、内容によって遺言執行者でなければできないものもあります。また、遺言執行者に指定された場合でも辞退することも可能です。
遺言執行者の報酬
遺言執行者の報酬については、弁護士に依頼した場合、日本弁護士連合会が平成16年3月までに定めていた「報酬規程」を参考にすると、たとえば財産の総額が300万円の場合は30万、3,000万円の場合は62万円、3億円の場合は354万円になります。委託銀行の場合は、遺言書作成から遺言執行まで200万円前後かかるようです。財産の総額が多い場合は、弁護士に支払う報酬より、一般的には司法書士や税理士の方が少ないようです。

