種類株式の活用で議決権を確保する方法

種類株式は経営権の課題解決のために用いられる方法です。
会社法上、認められている種類株式は9種類ありますが、事業承継において活用されることが多いのは、「配当優先株式」「無議決権株式」「拒否権付株式」「取得条項付」の4つです。ここでは、種類株式と属人的株式の活用方法について紹介します。

目次

自社株式の承継は難しい

事業承継における遺留分の問題

議決権の観点からは、後継者にこれを集中的に承継したいところですが、財産の大半が自社株式の場合には遺留分の問題が生じる場合があります。
遺留分を超えた生前贈与や遺贈を行った場合、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求という遺留分を取り返す請求を行うことが出来ます。推定相続人が複数いる場合、後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた結果、自社株式が分散してしまうなど、事業承継にとっては大きなマイナスとなる場合があり、遺留分を侵害せずに後継者が決議事項を単独で決定できるようにする必要があります。

遺言なく相続が発生することは危険

会社オーナーである経営者に、遺言がないまま相続が発生するケースを考えてみます。遺産分割が確定するまでは、自社株式は相続人全員の共有となります。例えば2人の相続人がいるとき、「自社株式の50%ずつが相続され、100株あれば50株ずつの所有となる」と思われがちですが、これは間違いで、実際には自社株式の1株1株すべてが相続人全員の共有となります。つまり遺産分割が確定するまでは、支配権を持つ株主がいない不安定な状態となります。

事業承継で活用できる種類株式とは?

株式には普通株式と種類株式がある

株式とは、株式会社の社員としての地位や権利のことです。普通株式を保有する株主は、株主総会における議決権の数や、配当金の支払いにおいて、保有する株式の数に応じて平等の取り扱いを受けます。最も基本的な株主の権利には、次の3つがあります。

株主の権利
  • 剰余金の配当を受ける権利
  • 残余財産の分配を受ける権利
  • 株主総会における議決権

この3つの権利については、各個別株主によって色分けをすることは禁じられ、同種の株式を持つ株主はすべて平等に取り扱わなければならないこととされています。これを「株主平等の原則」といいます。

<種類株式とは>

種類株式は、一定の事項に関する株主の権利を優先、または制限した権利や内容の異なる株式のことです。

株式は権利内容が同一であることが原則ですが、平成18年に施行された会社法では、2種類以上の株式を発行できることを定めています。種類株式の発行により、後継者以外の株主から株式を強制的な取得が可能となり、後継者の議決権の行使を容易にすることで、スムーズな事業承継と安定した経営が担保されます。

特定の事項に関する権利を制限する一方で、他の事項に関する権利を他の株主よりも優先させる場合が多くみられます。

事業承継における種類株式の活用ポイント

種類株式は承継する後継者がおり、株式を贈与等で承継を行いながら、当面の支配権を維持したいといったケースで多く利用されています。

種類株式の活用ポイント
  • 相続による株式分散の可能性から、早い段階で自社株式の承継が必要
  • 自社株式の承継は早期対策が必要な一方、経営権は中長期的に移したい
  • 財産としての株式は早期に後継者へ承継
  • 種類株式を付与することで現社長の支配権を維持したい

種類株式は9種類

会社法上の規定で種類株式に設定できる事項
① 優先配当       
(劣後も可)
剰余金の配当において、配当額や配当順序を差別化できる。
② 優先残余財産分配
(劣後も可)
残余財産の分配において、分配額や分配順序を差別化できる。
③ 議決権の制限株主総会で議決権を行使することができる事項を制限できる。
譲渡制限株式を譲渡する際、会社の承認を要件とすることができる。
⑤ 取得請求権株主が会社に対して種類株式の取得(転換)を請求することができる。
⑥ 取得条項一定の事由の発生を条件に、会社が株主から種類株式を取得することができる。
⑦ 全部取得条項会社が株主総会の決議により当該種類株式全てを取得することができる。
⑧ 拒否権株主総会や取締役会で決議すべき事項について、種類株主総会の決議を要件とすることができる。
⑨ 役員選任権種類株主総会で取締役・監査役を選任できる。

事業承継で主に活用できる種類株式

①優先配当

会社が株主に配当する剰余金の金額や順序について、普通株式よりも優先権を持つ株式です。

<事業承継での活用方法>
後継者以外の相続人に議決権制限種類株式を取得させる場合、その相続人から不満が出ないようバランスをとるために、議決権が制限される種類株式に配当優先条項を加える等の工夫をすることが考えられます。

②議決権の制限

株主総会における議決権の行使について、普通株式とは異なる権利を持つ、あるいは全く権利を持たない株式です。

<事業承継での活用方法>
先代経営者の相続財産の大部分を株式が占める場合、後継者に株式を集中させると、他の相続人から遺留分侵害額請求の主張が行われる可能性があり、その請求に係る支払のために後継者が承継した自社株式を売却せざるを得ないといった事態等も生じる可能性があります。そのため、後継者には普通株式を承継させ、他の相続人には議決権制限株式を承継させることで、遺留分に関する紛争や議決権の分散のリスクの低減等を図り、ひいては会社経営の安定化を目指すことが考えられます。

議決権制限株式の発行方法
定款に必ず定める事項株主総会で議決権を行使できる事項
定款に定めるか、取締役会等の決議で定める事項当該種類の株式につき議決権行使の条件を定めるときはその条件
株主総会の決議特別決議

配当優先・無議決権株式の活用例

現経営者
オーナー所有の全株式を子供に移転
後継者には
・普通株式 100株
後継者 以外には配当優先
・無議決権株式 100株
後継者他の相続人
※後継者に議決権を集中させることが可能

後継者は議決権100%保有で支配権は維持され、他の相続人には議決権のない代わりに配当を優先的に受けることとし議決権がないことの不満を抑えます。

③譲渡制限

株式を譲渡する場合に、発行会社の承認を必要とする株式です。

<事業承継での活用方法>
自社株式以外の財産が遺留分に見合うほどなく、後継者以外の相続人に自社株式の一部を相続させざるを得ない場合があります。相続後に後継者以外の相続人がその株式をさらに第三者に譲渡してしまうことがあれば、それが自社にとっては好ましくないということにもなりかねません。このような事態を避ける方法として後継者以外の相続人の株式を譲渡制限付きとする方法です。

譲渡制限株式の発行方法
定款に必ず定める事項● 譲渡制限につき株式会社の承認が必要である旨
● 一定の場合に承認したものとみなす旨とその一定の場合の要件
株主総会の決議● 特別決議

④取得条項

会社が”株主から強制的に株式を取得できるとする条項付の株式です。

<事業承継での活用方法>
一般に、経営者以外の株主が死亡した場合、相続により株式が分散してしまうケースがあります。そこで、予め「株主の死亡」を取得条項における条件に設定しておき、株主が死亡した場合には会社がこれを買い取れるようにしておけば、株式の分散を防止することができます。

取得条項付株式の発行方法
定款に必ず定める事項● 一定の事由が生じた日に会社が当該株式を取得する旨
● 会社が定める日を一定の事由とする場合にはその旨
● 株式の一部を取得する場合にはその決定方法
● 取得の対価の種類
株主総会の決議● 株主全員の合意(発行の対象となる株主)

⑤拒否権

株主総会や取締役会で可決されたある決議について否決することができる権限をもつ株式で、通常の株式より強力な権限が付加されていることから「黄金株」と称されています。

<事業承継の活用方法>
例えば、後継者が成長して単独で経営に関する意思決定を適切に行えるようになるまでの間、先代経営者が一定の重要な決議事項(例えば、取締役や監査役の選任・解任や報酬の決定、多額の投資、事業譲渡や合併といったM&A、重要な資産の譲渡等)について拒否権を保有し、後継者による会社経営を監督できるようにする場合等に活用することが考えられます。

議決権制限株式の発行方法
定款に必ず定める事項当該種類の株式の株主による種類株主総会の決議が必要とされる事項
定款に定めるか、取締役会等の決議で定める事項当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
株主総会の決議特別決議

相続における種類株式の評価

非上場株式の評価方法

相続税の財産評価の中でも非上場株式の評価は非常に煩雑ですが、種類株式を発行している場合は、さらに特殊な評価方法となります。同じ株式であっても、誰がその株式を所有するかによって評価額が変わります。

会社を支配している一族(同族株主等)の株式であるか
YES
NO
原則的評価方法
・類似業種比準価額方式
・併用方式
・純資産価額方式
特例的評価方法
・配当還元方式
※原則的評価に比べ、非常に低い株価となることが特徴

同族株主は原則的評価で、少数株主は特例的評価となります。

種類株式の相続税評価方法

<配当優先の無議決権株式>

配当優先の無議決権株式は配当優先株式と、議決権制限株式(完全無議決権株式)を組み合わせたものです。
このタイプの株式は、原則として議決権の有無を考慮せずに評価しますが、相続人の選択により、配当優先無議決権株式の評価を5%マイナスし、その分を普通株式の評価にプラスすることができます。なお、この「5%増減計算」を適用する場合には、次の要件を満たしていることが必要です。



「5%増減計算」の適用要件
  • 相続株式について、相続税の法定申告期限までに遺産分割協議が確定
  • 株式を相続するすべての同族株主から、「5%増減計算」を適用して相続税の申告をすることの「選択届出書」が提出されている
  • 相続税の申告に当たり、「取引相場のない株式の評価明細書」に、所定の計算様式を添付
被相続人(現経営者)
・後継者
・普通株式
・他の相続人
・配当優先の無議決権株式
5%評価アップ⤴5%評価ダウン
<拒否権付株式>

前述の通り、拒否権付株式は普通株式と比べて非常に強い権限を持ち、たとえ1株でも会社のコントロールが可能となるものです。基本的に株式は「会社に対してどのような権限を持つのか」が重要な要素として評価されますので、拒否権付株式は、当然、普通株式よりも高い評価となると考えられます。
ところが、国税庁の示す評価方式によれば、「拒否権付株式については、拒否権を考慮せずに評価する」つまり、普通株式と全く同額の評価とされています。

被相続人(現経営者)
後継者
・普通株式 ・拒否権付株式
他の後継者
・普通株式
通常の評価通常の評価

その他留意点

株主総会の決議について

種類株式を発行するには、株主総会等における決議が不可欠です。株主総会の決議とは、早く言えば選挙の投票のようなもので、会社経営上のさまざまな問題を多数決で決める手続きです。決議の種類には、普通決議、特別決議、特殊決議などがありますが、決議する内容によって方法も異なります。

株主総会決議の種類とその内容

決議の種類成立要件(下記のすべてを満たすこと)
普通決議① すべての株主の議決権の過半数を有する株主が総会に出席
② 出席した株主の議決権の過半数が賛成
特別決議① すべての株主の議決権の過半数を有する株主が総会に出席
② 出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成
特殊決議① 議決権を有する株主の人数の過半数が賛成
② 議決権を有する株主の議決権の3分の2以上が賛成
特別特殊決議① すべての株主の人数の過半数が賛成
② すべての株主の議決権の4分の3以上が賛成
株主全員の同意すべての株主が賛成

留意点

種類株式の活用に当たっては、自社の状況や経営者の希望、株主の利益に配慮した適切な設計と慎重な導入手続が不可欠です。希望する種類株式の内容が会社法上適法か否か、そして登記可能か否かの問題があり、また、種類株式の承継等に関する税務上の取扱いが明確でない部分も存在するため、早期に司法書士、税理士等の専門家に相談するべきでしょう。

種類株式と属人的株式の違い

属人的株式とは?

会社法上、属人的株式という概念があります。種類株式とは全く別物の制度となりますが、実質的には種類株式と同様の効果があり事業承継対策として活用されています。
属人的株式とは、株式の譲渡制限が付いている「非公開会社」において、以下の3つの権利に限定して、株主ごとに異なる取り扱いができる株式を発行することです。株主平等原則の例外的な位置づけとなります。

株主の基本的な権利
  • 剰余金の配当を受ける権利
  • 残余財産の分配を受ける権利
  • 株主総会における議決権
種類株式属人的株式
権利の取り扱い株主ごとに株式の権利を変えることができる同じ種類の株式において株主は同様の取扱いを受ける
複数議決権の付与不可
導入可能会社公開会社(一部除く)
非公開会社
非公開会社
登記必要不要
相続可能不可

属人的株式は「株主」、種類株式は「株式」に紐づけた制度で属人的株式は相続されないのも特徴です。

属人的株式の発行手続き

属人的株式を発行するためには、定款に定めることが必要で、株主の権利に重大な影響を及ぼすと考えられるため、株主総会の特殊決議が必要です。原則として、総株主の半数以上、総株主の議決権の3/4以上の決議が必要です。登記申請は不要で、属人的株式は第三者の目に触れないという特徴があります。

属人的株式の発行方法
定款に必ず定める事項株主の権利につき株主ごとに異なる取扱いを行う旨
株主総会の決議特別特殊手続き

種類株式の場合、1株に複数の議決権は認められませんが、属人的株式の場合は、例えば「オーナー社長が保有する株式1株につき、10個の議決権を有する」などの設定が可能です。この結果、事業承継等で、経営権を確保したい場合などに活用されるケースが多くあります。

留意点

「属人的株式」は柔軟な設計が可能で大変便利な制度ですが、属人的株式は、あくまで社長に属する場合のみ効力を有しますので、譲渡、贈与または相続して後継者が保有する場合は、1株1議決権に戻ります。
導入にあたっては、どのような内容の株式にするのか、将来的にどのように運用していくのかをしっかり検討しなければなりません。

参考資料
中小企業庁:事業承継ガイドライン
経済産業省:エクイティ・フィナンスに関する基礎知識
「事業承継の相談事例と実務の最適解」(OAG 税理士法人 著 日本法令)
「事業承継の安心手引き」(辻・本郷税理士事務所 著 アール・シップ)
「賢い経営者の相続と事業承継」(税理士法人日本会計グループ 著 ロギガ書房)
「税理士が知っておきたい 50 のポイント事業承継」(小田満 著 大蔵財務協会)

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