タワーマンションの購入

近年、タワーマンションによる相続税軽減のスキームがニュース等で話題になることがあります。どのような仕組みで相続税が軽減され、どのようなリスクがあるのか理解し検討いただければと思います。

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タワーマンションを活用した相続税軽減の仕組み

タワーマンションを活用した相続税軽減のポイントは、財産評価通達で定めた算定方式による評価額と時価との「乖離」です。
都市近郊などの市街地に所在する土地に関しては原則として路線価に基づき評価しますが、この路線価は一般的に時価の8割程度とされています。

また、建物に係わる相続税評価額のベースとなる固定資産税評価額は、一般的に土地よりも低い時価の5~6割とされています。

タワーマンションにおいては、その戸数の多さから一戸当たりの土地の持分は極端に低くなります。このため、評価額に占める建物部分の割合が多くなるため、結果として相続税評価額が(時価と比較して)低くなります。

マンション各戸の固定資産税評価額(建物部分)は、建物全体の固定資産税評価額を専有面積で按分し求められます。
従って面積が同じであれば、1階も最上階も固定資産税評価額は同額となります。

しかしながら、マンションの売買価格は一般的に1階上がる毎に3%増額するとされています。このため30階建てのタワーマンションで、地上階と最上階では同じ専有面積でも2倍の価格差が生じることになります。

これらの仕組みから、タワーマンションでは時価と評価額に大きな乖離が生じるため、購入により現金で財産を所有している場合と比較し大幅に相続税評価額を引き下げられることとなります。

国税庁が2011年から2013年に売買された343物件を試算したところ、評価額は平均で時価の3割ほどでした。
つまり仮に1億円程度のマンションを購入した場合、評価額は3千万円程度になることとなり、現金で保有している場合と比較し7千万円も評価額を引き下げることが可能となります。

また、タワーマンションの購入は他の対策と比較して対策に必要な時間が短く出来る点が特徴です。戸建て住宅やアパートを新築する場合は、竣工までに1年以上要するのに対し、マンションの購入であれば数カ月で済みます。この様に比較的短期間に対策が出来る点もメリットと考えられます。

Businessman and customer having a business meeting in the office before signing a contract, point of view shot

タワーマンションを活用した相続税軽減策のリスク

価格変動リスク
一部地域では供給過剰によりタワーマンションの売買価額が下落してるケースもあり、相続後の売却を検討している場合は、価額下落によるリスクも検討しておく必要があります。相続税が軽減されてもそれ以上に財産が目減りしてしまっては本末転倒です。

出典:不動産経済研究所「首都圏の新築分譲マンション市場動向」

課税強化の動き
タワーマンションを活用した行き過ぎた節税が散見されることから国税庁による課税強化の動きがみられます。

 令和4年最高裁による判決が出たケースでは、被相続人が相続発生の3年前に13.9億円で購入したマンション2物件(杉並区・川崎市)を3.3億円として評価、購入資金として銀行から10億円を借り入れていたことから相続税ゼロ円として申告。国税当局はこれが不当であるとして鑑定評価額12.7億円を採用した更正処分を行いました。

このケースでは、マンション購入時、被相続人は90歳台であり同時期に養子縁組も行っており、また相続発生の翌年にマンションの売却を行っていました。また、借入先の銀行に反面調査を行った結果、「相続対策でマンションを購入するための資金」であるという記載が残っていた様です。

つまり、このケースでは評価額と時価が乖離していることだけが問題でなく、節税目的があからさまであったため租税回避行為と認められたと考えられます。

従って、適正な節税と認められるためには、マンションの取得目的(居住・賃貸)を明確にしておく必要があります。そのうえで税務調査の可能性がある期間は出来る限り長く保有・活用していくのが望ましいと考えます。
一方である程度の期間マンションを保有する場合は、上述の価格変動リスクが増大することとなりますのでより注意が必要となります。

固定資産税の改正
平成29年税制改正においてタワーマンションについては、その算出方法が変更され階数よる価額差が評価額に反映されることとなりました。例えば1階と30階では7%程度評価額に差が生じます。
ただし、平成29年以前に完成しているタワーマンションであれば平成30年以降に中古で購入しても改正の適用外となります。

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