遺言書の必要性

相続において民法により相続人と相続分が規定されています。しかし配分が遺言者の意図と合致しているとは言えない場合があるでしょう。配偶者や子供には多く財産を残したい場合や、相続人ではないが自分がお世話になった人に財産を残したい場合など、遺言で指定しておけば遺言者の意思通りに実行することができます。また、遺産分配の相続争い予防のためにも遺言書を作成する重要性は高いと考えられます。

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相続争いを避けるためにも

親として、相続で子供たちが争う事態は発生させたくありません。そこで、円滑な遺産分割のためには将来、被相続人となる自分が、事前に「遺言」を書いておくといいでしょう。

遺言は相続対策の基本です。なぜなら遺言があれば相続人全員による遺産分割協議を行わずに、遺産分割が可能となるからです。一方、遺言書がなければ相続の際に相続人全員が集まって、資産の分け方を話し合う必要があります。しかし兄弟間で仲が悪く利害が対立する場合は、話し合いがまとまらず、争いが生じやすくなります。実務の現場では、遺産分割協議がまとまらず、子供たちが相続財産を巡って対立関係となった結果、絶縁状態に陥ってしまうケースがあります。こういった子供同士の争いを防止するために、事前に遺言によって遺産分割協議を回避するといいでしょう。つまり、親自身が分け前を決めてしまうのです。特に、相続財産の多くが換金性の乏しい不動産である場合は遺言を書くべきでしょう。遺言書があれば不動産の名義変更は可能になります。例えば相続人が長男、次男、三男の3人で、規模の大きな賃貸不動産を相続するとしましょう。賃貸不動産を3人で共有した場合、3人の署名と押印が無ければその不動産を売却することも、不動産を担保にして銀行に借り入れを行うこともできません。この時、遺言書があれば「賃貸不動産は長男に相続させ、長男は次男と三男に5,000万円の現金を支払う」といったような代表分割を行うことを指定し、不動産の共有を回避させることができます。

このように遺言書を作成することによって、親が相続財産の分け方を決めることになりますが、将来の子供の幸せを考えると、遺言を書いておくにこしたことはありません。

遺言書が必要な理由

特性の人に財産を残すことができる

相続において参考となる基準は、民法にあります。誰がどのくらい相続するのか、民法で相続人と相続分が規定されているのです。(民法第900条、第901条)

しかしこれは必ずしも遺言者の意思を反映しているものとは言えません。配偶者や子供には多く財産を残したい、相続人ではないものの、自分が世話になった人に財産を残したいなど、誰しもが考えることです。他にも子供を認知したい、寄付をしたいなど、遺言で指定しておけば遺言者どおりに遺産相続を実行することができます。

② 相続を「争続」としないために

相続は穏やかに、スムーズに進むものとは限りません。相続人間で話し合いがこじれてしまい、「争続」となってしまうことも珍しくありません。

相続人が配偶者のほかは兄弟姉妹という場合(特に義理の甥や姪が出てくる場合)には、話し合いが厄介になり、揉めてしまうことが少なくありません。このような時、生前に「妻に全財産を残す」旨を記載した遺言書を残し、自分の明確な意思を伝えておけば、相続人間の無用なトラブルを防止できたはずです。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書があれば妻に全財産を相続させることができます。また、配偶者も子もおらず、両親は既に他界しているような場合は、兄弟姉妹が相続人となりますが、遺言書を作成すれば、相続人でない者や法人に全財産を遺贈することができます。

親が事業を行っている場合は、事業を引き継ぐ親族が事業用資産を引き継ぐこととなるため相続財産が多くなり、他の相続人が法定相続分以下の相続財産しか相続できないといった場合があり、相続人間でトラブルが生じやすくなります。その際、どのような理由で財産分割を指定したかについて、遺言書に「付言」として記載することもできます。

遺言書の形式

普通方式と特別方式

遺言書には大きく分けて普通方式と特別方式があります。普通方式は一般的に利用されている遺言の方式です。普通方式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

 自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
作成方法本人が直筆で公証人が口述筆記
(ワープロ可)
本人
(直筆・代筆・ワープロ可)
作成場所決まりはない公照役場決まりはない
証人・立会人不要2人以上の証人の立会い公証人1人、
証人2人以上
日付年月日まで記入年月日まで記入年月日まで記入
署名・押印本人のみ必要本人、証人、公証人本人、証人、公証人
印鑑実印・認印・拇印
いずれも可
本人⇒実印
(印鑑証明必要)
証人⇒実印・認印
どちらでも可
本人⇒遺言書に押印した印鑑
証人⇒実印・認印
どちらでも可
費用かからない
(後で検認の費用がかかる)
作成手数料公証人の手数料が必要
(後で検認の責任がかかる)
封印不要不要必要
秘密保持できる遺言内容、遺言したことが知られる遺言したことは知られるが内容は秘密にできる
死亡後の家庭
裁判所の検認
必要不要必要

自筆証書遺言

自筆証明書とは、遺言者が全文、日付および氏名を自書して押印する方法のことをいいます。日付や氏名を必ず書くことが必要で、書いてないものは無効となります。証人や立会人は不要です。遺言者が自筆することが必要とされ、パソコンや録音での作成は認められませんが、パソコンで作成した財産目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記簿謄本を添付したりすることは認められています。ただし、自筆証書遺言には以下で説明する検認が必要です自筆証書遺言はそれを見つけた者は自ら開封することはできず、家庭裁判所に行って、相続人の立会いのもとで開封しなければなりません。この手続きのことを「検認」といいます。これは、遺言書が書き換えられることを防止するために実施するものです。なお、遺言者が法務局に預けておいた自筆証書遺言については、書き換えられるおそれがないため、検認は不要になります。

公正証書遺言

公正証書遺言は2人以上の証人が立ち会って、遺言者が公証人に遺言の内容を口述し、公証人がこれを執筆し、証人に内容を確認した後、各自署名押印し、公証人が署名押印する方式のことをいいます。作成した遺言書の原本は公証役場に保管されることになります。立合う証人については制限があり、推定相続人とその配偶者、受遺者とその配偶者など、遺言の内容について利害関係のある人は、証人になることができません。なお、公正証書遺言には検認の必要はありません。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は遺言者が自ら遺言書を作成して封印し、公証人の前で、これが自分の遺言書であると伝えたうえで、公証人と2人以上の証人が署名押印する方式です。秘密証書遺言には検認が必要です。


特別方式

特別方式は、死亡時の危急に迫った者の遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言、船舶遭難者等の遺言です。

遺言書の撤回

遺言書の撤回はできるのか?

遺言はいつでも何度でも撤回することができます。遺言を書いた後に、遺言者自身が財産の処分を行ったときは、遺言者が所有する財産と遺言の記載事項が異なることになってしまいますが、その部分について遺言が撤回されたとみなされます。また、複数の遺言書が存在する場合には、最も日付の新しい遺言書が有効とされ、古い遺言書のうち、新しい遺言書と異なる部分は撤回されたものとみなされます。

遺言書で指定できる内容

遺言では相続人が受け取る遺産や、相続割合について決めることができます。ただし、遺言で遺留分を害さないように注意が必要です。遺言により遺留分を害された法廷相続人が、遺留分侵害請求をする可能性があります。その他にも遺言では、相続人の廃除や未成年の子の後継人の指定などをすることが可能です。

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