事業承継における自社株式の課題

遺言書を作成することで、先代経営者が亡くなった際に自社株などを後継者にスムーズに引き継ぐことができます。遺言の内容については会社の今後、そして家族の幸せをよく考えた上で決めていくことは言うまでもありません。

事業承継対策では遺言書の活用が有効

遺言なしに相続が行われると、どうしても資産は分散される方向に向かっていきますので、株主を増やさないためにも、遺言書をしっかり考え公正証書として残しておくことをお勧めします。ここでは、事業承継における自社株式の課題を整理し、なぜ、遺言書を作成しておく必要があるかを理解いただけると思います。また遺産の大半が自社株である場合の遺留分対策、納税資金対策について解説いたします。

目次

事業承継における自社株式の課題 

  • 自社株が分散するリスク
    相続財産に含まれる自社株は遺産分割協議で複数の相続人に分散してしまう可能性があります。後継者が今後の経営を安定して進めていくには、自社株を一定数保有し議決権を確保しておくことが重要です。一度、株式が分散してしまうと、度重なる相続でさらに少数株主が増えていってしまいます。遺言によって相続させる、または遺贈する親族を指定しておけば、事業と関係ない親族が多数の株式を持つことを防げます。過半数超、できれば2/3超は保有しておくべきです。
  • 未分割時における議決権行使が困難
    会社オーナーである経営者に遺言がないまま相続が発生するケースを考えてみます。遺産分割が確定するまでは、自社株式は相続人全員の共有となります。例えば、2人の相続人がいる場合、「自社株式の50%ずつが相続され、100株あれば50株ずつの所有となる」と誤解されがちですが、実際には自社株式の1株1株が相続人全員の共有となります。つまり、遺産分割が確定するまで、支配権を持つ株主がいない不安定な状態となります。
  • 相続人以外の後継者へ議決権の移譲ができない
    事業承継には主に、相続人への承継、従業員への承継、第三者への承継といった3つの方法があります。相続人の中に事業を引き継ぐ意欲と適性がある場合、一般的には親族内での承継が選択されるでしょう。しかし、近年では、子供が親の事業を継ぐ気がないなど養子を迎えるケースもあり、親族外での承継も増加しています。 例えば、優れた役員や従業員に事業を引き継ぎたい場合、通常は自社株式の売買や生前贈与を通じて移譲されます。生前にすべての株式を移譲できれば良いですが、承継計画中や後継者の育成中に相続が発生した場合、遺言がない限り、株式を他の後継者に移譲することはできません。
自社株式の評価額が高い
自社株式を後継者に相続させる
他の相続人の取り分が少なくなる
不公平感
  • 事業関連資産の相続 
    個人事業を行っている場合、自社株式という考えはありませんが、経営を引き継ぐ際には、事業上の資産や負債も引継ぎの対象となります。事業用として利用している建物(店舗)や土地についても相続財産となりますし、売上に対する売掛金は債権、原材料や商品の仕入に対する買掛金、未払金は債務となります。また従業員への未払い退職金についても債務となります。事業を承継する相続人にとっては「事業用資産を他の相続人との間で細分化したくない」という思いがある一方、承継者ではない相続人は「事業用資産の大きさも踏まえて分割してほしい」という考えがあります。 この場合、お互いが感じる公平感を見極めながら、妥当な落としどころを見つけることが大切です。

自社株式の課題から起こるトラブル 

後継者でない相続人が自社株式を相続した場合

会社が不安定となる
後継者が自社株を相続できない状況となり、議決権割合が一定数確保できず、安定した経営を維持するのが難しくなります。

後継者以外の相続人が自社株式を取得するリスク

  1. 会社の意思決定が困難になるリスク
    株主は、株式の保有率に応じて、「支配権」や「拒否権」を有します。株式分散により経営者の保有比率が下がると、役員の選解任や重要事項に関する意思決定が困難になるリスクがあります。
  2. 株式買取や配当支払を求められるリスク
    上場株式のように簡単に売買ができないことが非上場株式の特徴であるため、少数株主から買取を求められる可能性があります。また、継続的な配当の支払を要求されることもあります。
  3. 会社の経営者が訴訟されるリスク
    例えば、株式の持株比率3%以上で会計帳簿またはこれに関する資料を閲覧する権利があります。帳簿閲覧権を行使して、会社の問題点を探し、株主の権利を毀損させるような取引が見つかった場合、株主代表訴訟の可能性があります。

後継者が経営権を喪失した最悪なケースも

相続税対策のため、法定相続分に従い会長の持株を分散したのちに、相続人である経営陣内でトラブルが発生した結果、後継者である長男が取締役を解任されたケースがあります。遺言で分割分を定めておけば回避できるケースです。

議決権シェアと権利の関係

議決権保有率できること
100%総株主の同意:取締役の自己取引、利他相反取引に対する責任免除
66.7%(2/3超)特別決議:定款変更、合併や会社分割など組織再編
50.1%(1/2超)普通決議:取締役の選任、解任、配当決定
33.4%(1/3超)特別決議否決:特別決議事項を承認しない
3%会社帳簿閲覧権
1%株主提案権
1株議事録閲覧権・株主代表訴訟

調停など分割協議の長期化によるトラブル

  1. 税務上の問題
    民法には、遺産分割協議を終わらせなければならない期限についての規定はありません。しかし、長期間放置しておくと、税務上の特例である配偶者の税額軽減や小規模宅地等に関する減額特例などが適用できなくなります。 これらの減額特例を適用できないと、相続税が大幅に高くなってしまいます。
  2. 税務以外の問題
    税務上以外の問題として、債権の消滅時効や取得時効といった制度があり不動産を放置していると、第三者が勝手に占拠しているときは他人に権利を奪われることがあります。 また、内紛による対外的信用の低下や、社員のモチベーションの低下が発生するリスクがあります。

名義変更等の手続きができない

預貯金の名義人が亡くなると、金融機関は死亡の通知を受けると口座を凍結し、払い戻しや入金ができなくなります。口座の凍結を解除するためには、まず相続人を確定し相続人全員による遺産分割協議による合意が必要となります。 相続人間で揉めてしまうと、遺産分割協議による合意ができず口座が凍結されたままとなり納税資金を自己資金から出さなければなりません。

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